2016 Fiscal Year Research-status Report
租税行政における「ソフトな手法」に関する日仏比較研究
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15K16919
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平川 英子 金沢大学, 法学系, 准教授 (90510371)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 租税行政における裁量 |
Outline of Annual Research Achievements |
租税行政におけるソフトな手法の問題の一つとして、固定資産税における誤評価を理由とする国家賠償訴訟に関連して、自治体が誤納金相当額を自主的に返還する事例を分析した。 固定資産税の過誤納をめぐっては、納税者側において過誤納金の還付のための正式な手続がとれないために、権利として還付を請求することができないケースにおいて、自治体が返還要綱等を定め、自主的に還付に応じるという慣行が散見される。このような行為は、法的には贈与と位置づけられるものの、固定資産税の過誤納が前提となっており、法律上の正式な手続によるものではないという点でソフトな手法の一つに位置づけられると考えられる。 こうした慣行のメリットとしては、納税者にとってはすでに還付請求権の及ばない部分につき経済的損失の回復を図ることが可能となる点、行政(自治体)にとっては納税者の納得を得ることや信頼を回復をするという点が挙げられるものの、デメリットとして、返還の可否につき裁量性があり、かえって納税者間の不公平をもたらしうる(あるいはそのような不公平感を生じさせる)ことが挙げられる。このように、租税行政におけるソフトな手法は、柔軟な対応を可能にする点で評価すべき面があるものの、柔軟さゆにもたらされる問題がある。税制および租税行政に対する納税者の信頼は、租税法・租税政策におけるもっとも重要な価値であるところ、ソフトな手法には、この点で大きな問題がある。したがって、ソフトな手法を租税行政において採用するにあたっては、納税者の信頼を確保するような制度的担保が必要であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度から28年度途中にかけて、産前産後休暇および育児休業を取得したため、予定していた資料調査および研究会報告に遅れが生じているため。
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Strategy for Future Research Activity |
年度前半においては、資料調査を速やかに実施し、原文資料の翻訳等の基礎資料の充実化を図る。基礎資料を踏まえ、フランス租税行政において裁量の具体的な現れ方を把握し、その問題点が学説においてどのように論じられているかを整理する。年度後半においては、平成28年度中の研究成果をふまえ、日本およびフランスにおいてソフトな手法の制度的担保を比較検討し、研究結果をまとめる。また研究会に積極的に参加し、批判検討を受けたうえで、論文にまとめることとする。
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Causes of Carryover |
平成27年度から平成28年度途中にかけて、産前産後休暇・育児休業を取得したこと、出産前後における体調の制約から、予定していた資料調査・研究会への出席を取りやめたことから、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予定していた資料の取得および研究会等参加を実施する。研究会への参加は月1~2回(主に東京)あり、宿泊を伴う出張を予定している。資料については、新年度で版が変わることが見込まれていたため購入を控えていた洋書等を順次購入する。
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