2015 Fiscal Year Research-status Report
表現の自由の再構成:ドイツにおけるプレスの自由論を素材として
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15K16925
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
阿部 和文 首都大学東京, 都市教養学部, 助教 (40748860)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 憲法 / 表現の自由 / プレスの自由 / ドイツ / ヴァイマール憲法 / 緊急命令 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究課題のうち、ヴァイマール共和国期のドイツ、特に1930年以降の緊急命令によるプレスの自由の制約に関する資料の収集と分析を行った。特に、昨年12月にドイツに渡航し、国立図書館及び連邦公文書館において、国内でアクセスし得ない図書・雑誌及び行政文書の探索・収集を行った。 その際、収集対象は狭義の法学文献に限定しなかった。その理由は、①プレスの自由や表現の自由に関する言説が法学内部で現在ほど蓄積されておらず、むしろ、②隣接諸科学の言説を参照する方が、個別の法令を背後で支える観念(プレスの自由の意義、出版物の社会的・政治的な責務、等)を分析するには適切だと考えられた為である。 また、行政文書を扱う理由としては、特に緊急命令に基づく押収・発行禁止等の処分をめぐって、単に現在の通念から裁断するのでなく、規制の背後に存する思考・論理を踏まえて厳密に把握する事が必要であり、従って、対象となった新聞・雑誌の現物や官庁の覚書を含む実務資料を参照する必要がある為である。 分析の結果をごく圧縮して述べると下記の通りとなる:①1930年以降のプレス法制をめぐる論議は国情の悪化を背景として政治的犯罪(公人への名誉棄損等を含む)に集中すること、②緊急命令は総じて印刷物の押収、発行禁止、公的機関による反論の掲載義務、違法な印刷物の在庫に関する申告義務等の厳重な規制を定めていたこと、③②の規制は旧来のプレス法だけでなく、1930年の共和国保護法よりも厳格であったこと、④にも拘わらず②をめぐって憲法との関係で反駁する言説は少数であったこと、⑤法律家及び業界関係者からは、厳格な規制に対する否定的な評価が為される一方で、扇動的で無責任な新聞・雑誌に何らかの対応を行い、国民のプレスに対する信頼を回復すべきだという点で概ね一致していたこと。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記評価を行った理由は、緊急命令をめぐる実務に関する資料の分析が完了していないことである。具体的には、①ドイツでの資料収集が一身上の事情(親族の病気等)により年度前半のうちに果たせなかったこと、②現地で確認・収集された資料が膨大であり(PDFの枚数にて6000枚程度)、資料の重要性に関する判断・選別に予想外の時間を要していること、③(②の事情とも関係して)公文書館による複写作業が遅延し、資料の到着が年度末となったこと、が主な要因である。 但し、以上のうち特に②については、本来の研究課題をより一層深く丹念に(つまり、国内でアクセスし得る狭い範囲の専門文献だけでなく、行政実務の細かなありかたを踏まえて)遂行するする環境が整ったことをも意味する。上記事情が却って今年度の研究を実のあるものとする可能性も存することを踏まえれば、一概に否定的に評価すべき事柄ではないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度の作業目標としては、先ず、①上記の公文書館で得られた資料の選別・分析を優先的な課題とし、この作業を可能な限り早期に完了して、大統領緊急命令のプレス規制をめぐる言説(特にその正当性を支える思考)のパターンとその背後にある前提条件を明確化する。(この作業から、可能であれば、政治的問題に関する言論の自由の制約と、更にそれを超えた同自由を保護・擁護に関するヨリ一般的な示唆を得たい。) 更に、②ヴァイマール期を主とするドイツのプレス法制全体に関する調査を行い、①の時期の言説が他の時期との関係で有する特殊性と共通点とを析出し、政治社会の変化とプレスの自由がいかに相関してきたのかを解明する。(憲法上の権利が社会情勢の変化に関係なく「普遍的に」保障されるべきものだとしても、時々の問題やそれに対応する規制を批判的に分析するには、過去の事例を参照しつつ議論を細かに構築する方が、生産的だと考えられる。) 具体的な目標としては、上記①については、大統領緊急命令に関する資料の分析を完了し、これに関する論考を所属研究機関の紀要に投稿し、少なくとも掲載の時期を確定させたいと考えている。 また、上記②については、昨年度に収集した資料の分析を完了し、上記論考の次に執筆すべき論考の大枠を確定させたいと考えている。
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Causes of Carryover |
上記の額の次年度使用額が生じた理由は、購入予定であった文献(洋書)の発売が遅延したことによる。即ち、昨年度内に刊行されるはずであった文献の発売が遅延し、昨年度の所属研究機関による会計処理の期限に間に合わなかったために、同文献を購入するために使用せずにおいた金額が、残額となった次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記文献は報告書作成時点でも発売されていないが、遅くとも夏までには刊行が見込まれる為、次年度使用額となった分はその購入に充当する。なお、仮に刊行が更に遅延し、今年度の会計処理の期限に間に合わない可能性のある場合には、研究課題の遂行に必要な他の文献の購入に充てる予定である。
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