2017 Fiscal Year Research-status Report
非国家行為体に対する越境軍事行動の法的基礎づけの探究―自衛権と緊急避難の交錯―
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15K16932
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
田中 佐代子 法政大学, 法学部, 准教授 (20709323)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自衛権 / 緊急避難 |
Outline of Annual Research Achievements |
安全保障をめぐる従来の議論は主として外国国家からの攻撃の危険を想定してなされてきたが、2001年9月11日の米国同時多発テロは 、非国家行為体がもたらしうる脅威の大きさを衝撃的な形で世に示した。様々な集団・個人によるテロ行為が頻発し被害が増大している今日、非国家行為体に対する越境軍事行動がどのような法的根拠にもとづいて認められうるのかを明らかにすることが喫緊の課題となっている。本研究は、自衛権と緊急避難についての検討を統合的に行うことでこの課題に取り組んでいる。 本課題遂行の三年目となった2017年度は、2016年度からの作業を継続し発展させた。具体的には、第一に、20世紀以降の学説・国家責任法法典化作業の検討を継続し、理論的展開の全体像把握に努めた。第二に、自衛権についてunwilling or unableの法理の検討を継続した。すなわち、シリア領域内のIS(いわゆるイスラム国)に対する米国等の軍事作戦をめぐって、テロ攻撃を行う非国家行為体の所在する領域国が実効的な取り締まりの意思や能力を欠く(unwilling or unable)場合には、テロ被害国は自衛権を行使できるという主張がなされ、近年注目を集めている。このunwilling or unableの法理が、非国家行為体に対する越境軍事行動をめぐる従来の議論といかなる関係にあるのかについて理論的な整理を行った。さらに、同法理を支持する論者がその根拠として挙げる国家実行について、いかなる意味で国家が領域国の意思・能力に言及したのかを分析した。第三に、第二の作業により、unwilling or unableの法理の近年の援用に、国家主権の概念の変化が関係していることが示唆されたため、その理論の検討を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画のうち、緊急避難に関わる部分について作業を加速する必要がある。他方で、自衛権に関わる部分については、当初の計画では直接的には想定していなかった国家主権概念との関わりも含めて検討を進めることができた。したがって、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題開始後の国家実行の展開に鑑みて、これまでのところ、自衛権に関する検討を中心的に行ってきたが、自衛権と緊急避難について統合的に研究するという当初からの目的に留意し、緊急避難についての検討を進める。 2018年度は最終年度となるため、成果のとりまとめに力を注ぐ。
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Causes of Carryover |
【理由】物品費については、研究遂行のために必要であり購入予定であった洋書の刊行が遅れるなどしたため。また、人件費・謝金については、文献・資料の収集状況に鑑みて資料整理を依頼すべき時間が少なかったため。 【使用計画】上記書籍の購入および資料整理の謝金にあてる。
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