2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K16943
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
櫻庭 総 山口大学, 経済学部, 准教授 (80546193)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヘイトスピーチ |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、ヘイトスピーチ刑事規制の類型化を行い、類型化毎に現行刑法体系との整合性に関する検討を行った。それを踏まえ、今年度は、扇動罪型の限定的な刑罰法規を創設した場合の、現行刑事司法における運用上の問題をまとめ、櫻庭総「ヘイトスピーチ規制における運用上の諸問題」徳田靖之ほか編『刑事法と歴史的価値とその交錯――内田博文先生古稀祝賀論文集』(法律文化社、2016年)812-836頁、として公表した。 また、昨年度は憲法学者との座談会から、扇動罪型における憲法上の論点をふまえ、具体的な処罰範囲を画定させることの必要性を明らかにできた。そのため、今年度は、ドイツにおけるヘイトスピーチ規制である刑法130条の民衆扇動罪、とりわけ第四項のナチス体制賛美罪の合憲性に関するきわめて重要な連邦憲法裁決定(ヴンジーデル決定)に焦点をあて、検討を行った。同決定では、アメリカ判例法理でいわれる観点規制類似の判断基準がとられていること、公共の平穏に関する限定解釈の具体的方法が述べられていること、一方でナチズムの特殊性を強調することでナチス支配賛美行為に公共の平穏危殆化が認められていること、等が参考になる。より具体的には、ナチズムといった特定の対象を構成要件に規定することの是非および危険性判断に際しての当該国家社会における歴史的背景の影響の是非が、日本におけるヘイトスピーチ規制のあり方に関して示唆となる。これについては、複数の研究会で報告を行い、現在、論文として執筆中である。 なお、今年度は、ヘイトスピーチ規制に関する条例を検討中の地方自治体の会議や、ヘイトスピーチに関する高校出張授業に呼ばれたり、ヘイトスピーチに関する事件について新聞社からコメントを求められたりする機会が増えた。これらのことから、研究成果発表の効果を実感するとともに、現場での声を聞くことで、さらに研究内容を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果は定期的に論文として公表できている。ドイツの判例に関する研究についても、最も注目すべき判例を探し出すことができ、また、その検討も進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツにおけるヘイトスピーチに関する近年の重要な判例であるヴンジーデル決定について、論文を発表する。そして、これを踏まえて、扇動罪型ヘイトスピーチ規制の具体的処罰範囲に関する結論を提示できる論文を最後に執筆する。 これによって、ヘイトスピーチ規制について、本科研費での研究を通じて、①日本における現行刑法上の限界、②現行刑事司法上の限界、③比較法としてドイツにおける扇動罪型に関する判例の検討、④それらを踏まえた日本におけるありうる扇動罪型規制の具体的可罰範囲、を明らかにできる。
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Causes of Carryover |
平成28年度は学内の委員を複数担当することになり、長期休暇中にドイツ渡航のためのまとまった期間を確保することができなかった。そのため、計画していたドイツ渡航が実現できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の7月および2月にドイツ渡航を計画している。
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