2015 Fiscal Year Research-status Report
捜査機関による情報の集約と総合的監視に関する比較法的検討
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15K16944
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
内藤 大海 熊本大学, 法学部, 准教授 (00451394)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 刑事訴訟法 / 捜査 / 情報収集 / 監視型捜査 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、本研究の全8期のうち、第1期および第2期に該当する。当初の研究計画によれば、第1期(平成27年4月~9月)は、現代型捜査における情報収集活動の規制方法の確認・検討に、第2期(平成27年9月~平成28年3月)は、行政警察活動に関する現行授権規定の確認・検討に当てられるべき期間である。いずれもわが国における現行法制度とこれに関する議論状況の確認を行う事を目的としている。前者については、判例を契機に同時進行的にGPS装置を利用した監視捜査の強制処分性をめぐる議論が行われており、その中で監視措置に関する総論が展開されていることが確認された。ただし、この期間で本来明らかにすべきは、各種の情報収集活動に対する個別の規制方法であるが、現行刑訴法上はGPS監視を含む新たな捜査手法について個別の規定を新設するなどという具体的な動きは見られない。事実、GPS監視措置も検証という従来より存在する規定を用いた規制のあり方が検討されていた。他方、ドイツ刑訴法では、多種多様な情報収集処分が個別の規定により規制されていることが新たに明らかになった。そこで、むしろそのようなドイツ刑訴法における各種処分の確認後に、それらの処分をわが国ではどのような規制に委ねているかを確認した方が有意義であると考え、ドイツ刑訴法における情報収集処分の確認と、総合的監視に関する議論状況の概要把握に努めた。ドイツにおいては、一定期間以上にわたる行動監視は「長期的監視」(ドイツ刑訴法163条f)とされ、原則として裁判官の命令がなければ行うことができない点が特筆すべき点としてあげられるが、この点を含め様々な情報収集処分の蓄積による総合的監視の問題を俯瞰しておくために「総合的監視に関する予備的考察」(熊本法学136号)としてまとめ公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度における当初の作業目標は、日本における司法警察活動、行政警察活動の量領域における情報収集方法の規制方法の確認が主であった。しかし、司法警察活動については「研究実績の概要」でも述べた通り、刑訴法これに関する新たな規定の新設に向けた動きはなく、幅広い任意捜査の枠内で実施するか、強制処分となるとしても検証等の既存の処分の枠内で実施されていくことになりそうである。そのため、この点に関する調査を早い段階で切り上げ、ドイツにおける種々の情報収集活動に関する個別の規定を概観し比較することで、わが国における規定の手薄さを欠くにすることとした。ドイツでは、まず 「長期的監視」(刑訴法163条f)が裁判官留保に服している点でわが国とは状況が大きく異なる点を明示した。さらにDNA鑑定などの情報解析技術を利用した新たな情報収集についても実施要件が法律で定められている点に着目し、ドイツにおける議論ないし法制が、情報の取得行為のみを対象とするものではなく、その後の「蓄積・保管」、「処理・加工」、「事後利用」という各過程を対象とするものであることを明らかにした。公表論文(「総合的監視に関する予備的考察」熊本法学136号)では、総合的監視と呼ばれる状況はこれらの過程を通じて実現されるため、各過程における活動を個別に検討する必要があり、いかなる情報も事後の利用によっては証拠ないし捜査情報としての価値が上昇する可能性があるため、裁判所は各種処分の命令を発する際にはそのことを見越した上で判断を行わなければならないとするドイツの議論を紹介した。
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Strategy for Future Research Activity |
公表論文では総合的監視と呼ばれる問題状況の概要を明らかにするために予備的考察を行った。この中ではドイツの議論状況を概観し、比較対象とすることで、わが国における情報収集に関する個別的規定の手薄さを明らかにした。最終的には、ドイツにおける総合的監視に関する判例及び学説の議論は、事後の情報集約による基本権の中核領域の侵害を見越した、情報取得時における規制のあり方を議論するものであるという知見をもとに、同様のコントロールがわが国においても可能かどうかを明らかにする。ただし、ドイツと日本では、種々の情報収集活動に対する個別の条文が存在するか否かという点で違いがあり、この点は両国を比較する上で無視できない差異である。従って、当初予定されていた作業目標(【第3期】(~平成28年9月)犯罪対策/犯罪との闘争という概念の分析。【第4期】(~平成29年3月)犯罪対策の2側面の関係性の分析(中間まとめ))に取り掛かる前に、これらの点を明らかにする作業を行う。
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Causes of Carryover |
当該年度は研究会における2度の報告、ドイツでの訪問インタビューを行ったため、旅費の支出が多くなった一方で、書籍の購入に充当する支出が予定よりも相当程度減少した。その理由は、当初ドイツにおける総合的監視に関する書籍の購入を予定し、予算計上を行っていたものの、実際には書籍として出版されている文献がそれほど多くなく、関連する周辺領域の書籍の購入にとどまったためである。また、わが国の警察法に関する概説書は新しいものが出版されなかったため、これらに関する予算も未使用となった。さらに当初MacBookAirIIなどの電子機器類を購入する予定であったが、旅費支出が予定額を超過する見込みが出たため購入を控え、その分が残額として生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は2度のドイツ渡航を予定しており、すでに先方にも予定を伝えてある。両渡航で60万円の予算を計上していたが、本年度の交付額自体が目減りしているため、平成27年度の未使用額の一部は旅費の一部として使用する。また、これまでの研究では、総合的監視に関する書籍は少ないが、その基礎となる憲法領域における先行研究(特に情報自己決定権に関して)をフォローする必要があることが明らかになった。そのため、これらの書籍の購入にも充当したい。
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