2017 Fiscal Year Research-status Report
捜査機関による情報の集約と総合的監視に関する比較法的検討
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15K16944
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
内藤 大海 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (00451394)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 監視型捜査 / 密行的処分 / 行政警察 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は研究機関全体を8期に区分したうちの5、6期に該当し、行政警察目的で行われる情報収集活動について分析を実施し、警察が取得した情報の利用目的の多重化と取得情報の規制について検討を加える計画であった。そこで、昨年度末に実施した研究報告をもとに、犯罪と刑罰27号(2018年3月公刊予定)における共同企画「監視型捜査とその規制」のなかで「犯罪対策と情報収集―情報データベースの構築と警察介入の早期化―」というタイトルの論考を執筆した。ここでは、犯罪捜査で取得された情報の利用可能性を整理し、捜査の根拠となった被疑事件との関係で使用されるのみならず、過去の未解明犯罪や将来の犯罪との関係でも当該証拠が資料される可能性があることを指摘した。次に、「捜査における欺罔・不告知と錯誤の利用」(『新倉修先生古稀祝賀論文集』掲載予定)では、最高裁によるいわゆるGPS判決を念頭に置きつつ、これまでの密行的捜査手法の多くが、概ね任意捜査として位置付けられてきたことに対する再検討を試みた。 当該年度の研究計画の中核には、行政警察活動における情報収集の現状と規制方法の検討があった。しかしながら、文献調査からは捜査等の警察活動で取得された情報が、実際に警察においてどのように保管され当初とは別の目的にも転用されるのか実証することが極めて困難であることが明らかになった。そこで、GPS捜査をめぐる議論のなかでも指摘されているように、情報の取得や利用が顕在化しない処分については、もはや外部的コントロールをかけられないということ自体が問題であるという結論に至った。このような見解は、GPS捜査に関する大法廷判決の理論的背景とも共通するように思われ、現実に捜査上取得された情報が目的外に利用されているか否かというよりも、それが可能であるという状況こそが問題であると結論づけた上で、今後の検討課題に着手することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
刑訴法上の情報収集手段が行政警察目的でも利用されているという仮説の論証を目指していたものの、文献からの調査では極めて困難であり、一方、関係機関への聞き取り等の調査も期待できなかった。他方で、本研究全体について重要な意義を有する最高裁大法廷平成29年3月15日判決(GPS判決)が出されたため、こちらの分析と検討を急ぐ必要が生じた。結果として、大法廷判決が実際の侵害結果ではなく、その危険性を根拠に警察活動を規制するという理論を示したため、本研究でも、捜査によって得られた情報が行政警察目的にも転用可能であり、かつ、内部資料として運用されれば外部からのコントロールがかけられない状況にあることを根拠に、議論を構築する方向に修正した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、本研究の最終年度に当たり、まとめの作業に入る。本研究は、捜査による各種処分が行政警察目的で利用されていることを論証し、その仮説を前提として然るべき対策を検討する予定であった。しかしながら、別途述べた通り、警察内部の情報運用を明らかにすることは極めて困難であり、また、とくに問題となりやすい警察活動について外部的コントロールが働き、処分が顕在化しやすい司法警察と比べて、活動の一端が表面化しない行政警察活動の実態を把握することはおそらくほとんど無理である。そこで、GPS判決を前提に、そのような情報流用が可能であること自体が問題であるとした上で立論することとし、情報濫用の実態については可能な範囲でドイツ法の事例を参考にすることとする。 なお、本研究を基課題研究とする国際共同研究加速基金による研究で1年ドイツに滞在するため、日本国内での研究会参加等が叶わなくなった。そのため、機会をみてドイツの共同研究者に日本の状況を説明し、ドイツ法の知見を得るように務めたい。
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Causes of Carryover |
当初の計画では洋書の購入で残金相当の支出が見込まれていたところ、予定していた以上に国内研究に従事する必要性が生じ計画を変更したため。その理由は以下の2点である。まず、最高裁平成29年3月15日決定で大法廷がGPS捜査に対する画期的判断を下したため、本研究との関係上この判例の検討、分析を余儀なくされた。次に、国際共同研究に向けた前年度の出張で、共同研究者らから、日本の状況を正確に紹介して欲しい旨の要望があった。GPS捜査大法廷判決も含め、日独比較の前提としてこれらの作業に作エフォートが増した分、ドイツ研究に必要な洋書の購入が減った。
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