2015 Fiscal Year Research-status Report
友好的企業買収交渉における取締役の裁量に関する責任規範の比較法的考察
Project/Area Number |
15K16957
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
古川 朋雄 大阪府立大学, 経済学部, 准教授 (30571898)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 民事法学 / 会社法 / M&A / 取締役の責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日米の比較法的考察に基づいて、友好的企業買収の交渉に関わる企業経営者の裁量の範囲と負うべき責任の内容を明らかにし、わが国において望ましい規律のあり方を見出そうとするものである。特に買収交渉における対象会社取締役の判断に対し、裁判所がどのような視点に基づいて審査を行うべきか、また合併契約等における取引保護条項の法的評価をどのように行い、合併等の差止めの可否や買収対象会社の取締役の責任について判断されるべきかを検討の対象とする。 本年度は、特にデラウェア州を中心とし、友好的買収に関する米国裁判例の近年の動向を確認することにより、上記の論点に関する米国裁判例の姿勢を把握することを主な目的とした。とりわけ、1)米国では合併契約等の成立過程や契約条項について、どのような視点から訴訟が展開されているか、2)近年の裁判例では、買収対象会社の取締役の裁量をどのように理解する傾向が見られるかの二点を中心的に検討した。検討の結果としては、まず、取締役の判断に対し裁判所が積極的に審査を行う姿勢が見られていた従来の議論状況に変化が見られ、デラウェア州最高裁判所も友好的買収に関する取締役の裁量の範囲を広く認める姿勢を示していることが確認された。また、このような傾向から、裁判所は取締役が行った交渉の内容を積極的に審査することよりも、特別委員会の独立性や交渉権限を阻害する事由がないことや、株主総会に対して十分な情報開示がなされていることが重視されている状況が明らかになった。以上の裁判例の動向が学説・実務においてどのように評価されているかは、次年度の研究において分析する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、デラウェア州を中心とした近年の米国裁判例の検討を通じて、友好的買収の交渉や契約締結に関する買収対象会社の取締役の判断について、裁判所がとる姿勢や審査基準について検討と整理を試みた。この作業を通じて、わが国の買収に関する取締役の判断について、裁判所が積極的にその合理性などの審査を行うべきかを検討するにあたり、重要な示唆を得た。 また本年度は、友好的買収の場面における表明保証保険の意義をどのように理解するかという新たな問題意識を得た。この点は次年度の研究課題とすることとし、本年度はその前提となる保険法の知識の習得にもつとめた。表明保証保険については、当初想定していなかった論点ではあるが、申請時より新たな論点の把握も初年度の達成目標としており、概ね順調に研究を進められていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度に引き続き米国法に関する研究を中心とし、さらに米国法研究の総括を行う。ここで行う作業は、特に取引保護条項の類型化と、合併契約等にそれらの条項を導入した取締役の判断に対する審査基準の適用関係を整理することである。取引保護条項の中には、取締役の行動を制約するもの、会社の行動を制約するもの、株主の行動を制約するものなど様々なものがあり、条項の種類によってその強弱も変わってくる。さらに、複数の取引保護条項が同じ契約に盛り込まれることも珍しくないことから、裁判所がどのような事実関係に着目し、条項の種類によってどのように対応を変化させているかを整理する。
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Causes of Carryover |
本年度に使用する予定の研究費に未使用額が生じた理由は以下の二点である。まず、データベースを通じて得られる情報が予想よりも多く、その資料の分析を優先して行ったため、追加的な資料収集を行うための旅費を使用しなかったことである。 また特に大きな理由として、洋書の手配を行った際に注文した書籍(約10万円相当)が輸送中に米国内で行方不明となり、入手できなかったことが挙げられる。同書籍をあらためて注文する場合には、初めの予定額を大幅に上回る費用を要することが判明したためにいったん断念した。当該文献については、次年度に再度購入を検討する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、前述のとおり、洋書の購入にあてるほか、平成28年度分として申請した助成金と合わせて同年度に物品費または旅費として使用する予定である。
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