2016 Fiscal Year Research-status Report
後遺症被害者の損害賠償の理論と現代的展開―全部賠償の原則の具体的適用場面の検討―
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15K16958
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
住田 守道 大阪府立大学, 経済学研究科, 准教授 (70568815)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 人身損害賠償 / 非財産的損害(薬害)の評価 / 全部賠償(填補)の原則 / 事実審裁判官の専権と破毀院の統制 / 逸失利益 / 損害論 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、前年に分析したHCV感染被害の非財産的損害の賠償の展開に、新たな資料の分析と検討を加え、「フランスの薬害等における非財産的損害の賠償[その2]として2回連載で公表した。作業に加えた点は以下のとおりである。 包括的な評価の対象となっていた進展性被害のケースの非財産的損害の算定につき、破毀院は、ある事情の場合のみ区別を肯定するのはなぜか。これは、損害の項目設定時には、想定外であったり、焦点化された前提条件を充たさない特殊事情がある場合に、想定されていた被害と実際の被害内容とのズレが問われ、両者の照らし合わせしながら、過不足なく損害を把握しようとするためであると考えられる。また、他の薬害被害では包括的評価が徹底される点との相違は何か。抗ウィルス治療法確立前のHIV感染被害の場合のように、ほぼ全ての被害者の最悪の結末が差し迫っている、という緊急性に由来する、最も迅速な解決の要請およびそれを担保する法的手段が、今回の検討類型では見られないことである(結果、個別事情の立証重視)。最後に、包括的評価の課題として、アプリオリに包括的評価を行うとするとき、全部賠償に反しない可能性もあるが、具体的評価を促すインセンティブを内在していない点をいかに補うかという問題がある。 次に、逸失利益賠償と損害区分論の資料収集を行い、特に前者については2000年代半ばからの逸失利益分化過程を分析した。現在、「職業上の影響」といわれる損害項目が逸失利益算定では填補しきれない部分を補う。「労苦」と「賃金+利点」の均衡が事故によって崩壊し(「追加労苦」の発生、利点の喪失)、その不均衡の是正を担うものである)。その傍らで、全部填補原理が人身損害賠償実務上いかに遵守されるかについて検討した結果を、「損害の算定と「事実審裁判官の専権」統制論―全部賠償の原理適用の一側面―」と題し、執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定であった3つの分野での損害の算定における全部填補原理という賠償方針の具体的適用を観察することに加え、もう一つ別の分野である事実審裁判官の専権統制論の分析が先に一定の段階に達した結果、そちらの公表を先行させたため、少し立て込んだ状況となったが、この追加課題に関する資料収集および検討過程で、残る2つの課題の資料収集および検討が平行して進んだところがあり、現時点では2課題についての成果物は完成していないが、概ね順調であると言えると考える。なお事実審裁判官の専権統制論の方は入稿済みである。
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Strategy for Future Research Activity |
フランスにおける逸失利益二分論の生成と展開を検討し、その内実を明らかにしたものをできる限り早期に脱稿すると共に、引き続き最後の課題である損害区分論の分析を行なう。前者については、各種法律雑誌の下級審裁判例を土台とした実用面での学説の検討を素材に、後者については、より理論的な学説の提言(一般的な民事責任法理としての提言と、人身損害賠償法の中で見られる提言との相違点に留意すべき事柄があるとの認識の下、その相違点を明らかにしながら、後者の領域での取り扱いを主対象とする)を素材に、検討を進める。
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Research Products
(4 results)