2016 Fiscal Year Research-status Report
不法行為法における多元的な責任原理の意義と関係性に関する基礎的考察
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15K16963
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
前田 太朗 愛知学院大学, 法学部, 准教授 (20581672)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 危険責任論 / 方法論 / 企業責任論 / 過失責任論 / 民法 / 不法行為法 / オーストリア法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、危険責任の類推適用に関して方法論的な観点からの正当化の検討をおこなった。類推適用においては、立法において欠缺がなければならないため、オーストリア法における①オーストリア一般民法典(以下ABGB)の起草者であるFranz von Zeiller及びその討議において、過失・有責性に基づかない責任は、起草者が示した当初の案では、過失責任を原則としており、それに対して討議過程で異論が示され、過失に基づかない各種の責任(例えば当事者の財産状況を考慮する衡平責任)が最終的に設けられるに至ったことを明らかにした。また起草者であるZeiller自身について、19世紀後半の学説では、過失に基づかない責任を過失・有責性責任と並ぶものと評価していたとする見解も見られたところ、こうした理解は、起草過程に照らすと必ずしも適切ではないことを示すことができた。方法論の観点からすると、危険責任の一般条項を欠くことが必ずしも法の欠缺を意味するとは確定できないことも明らかとなった。 ②各種特別法、とくに、1950年代において、鉄道及び自動車に関する責任義務法(以下EKHG)の起草過程において、これと並行して行われた危険責任の一般条項の提案の分析・検討をおこなった。ここでも射程の広い規定を想定していたものの、具体的な危険源との関連付けが広く意識されており、危険責任の一般条項を欠くことについて法の欠缺があるとまで言い切れないことが明らかとなった。①及び②の検討の成果は、研究実績に挙げる論文において公刊されている。 また実体的調査として、危険責任一般論と自動車責任の関係性について検討されているオーストリア経済大学のMartin Spitzer教授にインタビューをおこない、オーストリア法における危険責任論の意義、損害賠償法の改正状況、ドイツ法・日本法との相違等の議論を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請段階において、平成28年度は①製造物責任法(PHG)及び②EKHGの各論的検討をおこなう予定であった。②について1950年代後半の危険責任の一般条項提案の検討と合わせて関連して検討をおこなうことができた一方で、①については、②の検討で時間がとられたため、そこまで深く検討をおこなうことができなかった。この理由として、平成27年度で明らかとなった、危険責任の広い適用可能性の検討においては、方法論的な観点からの正当化が必要であり、これとの観点で、ABGB及びEKHGの起草過程の検討に時間をとられたことに求められよう。①については、本年度以降に検討をおこなう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の推進内容からみていくと、申請書において平成29年度は、不法行為法体系における責任原理の捉え方の検討を深めることとなっており、これは、本研究課題の核となる部分である。この検討の中心におかれるのは、危険責任論を支える基礎的な理論の探求である。危険責任の広い展開においては、動的システム論による支持が重要なものと考えられている一方で、日本法では必ずしもこの動的システム論が機能しているとは思われない。ここでの検討は、危険責任と動的システム論はどれほどの密接関連性をもっているのか、ないとして、危険責任の広い展開は何によって支えられるのかを検討することで、不法行為法体系における責任原理の関係性の捉え方を探っていきたい。 上記内容の実践的方策として、各大学等で開かれる研究会での報告をもとに、自身の見解のブラッシュアップを図り、各種雑誌媒体(愛知学院大学論叢法学研究、愛知学院大学宗教法制研究所紀要、早稲田大学比較法研究所比較法研究等)の掲載の機会を利用して、研究成果の講評を目指す。研究実績の概要でも示したように、オーストリアのMartin Spitzer教授と知遇を得たこともあり、引き続き積極的にオーストリアの研究者と連携して研究を展開していきたい。
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Causes of Carryover |
オーストリアにおけるSpitzer教授との調査において、教授への謝金の支払いを予定していたが、教授が謝金は不要とのことで、その謝金相当額があまったことと、購入予定の本の出版が遅れたため、本の代金相当額が余ったため、次年度使用額が生じたものと思われる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度も、研究遂行にあたって必要な書籍の購入とオーストリアでの調査のための旅費の支出が中心となる。前者については、いくつかのコンメンタール及び教科書の改訂が出される予定であり、その購入が中心となることが予想される。また後者においても、平成28年度と同等の期間の調査を予定している。
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Research Products
(5 results)