2017 Fiscal Year Research-status Report
不法行為法における多元的な責任原理の意義と関係性に関する基礎的考察
Project/Area Number |
15K16963
|
Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
前田 太朗 愛知学院大学, 法学部, 准教授 (20581672)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 危険責任 / 法学方法論 / 過失責任 / 使用者責任 / オーストリア法 / ドイツ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の実績として、①日本私法学会での個別報告、②法学方法論的観点からの危険責任論の可能性の検討、③責任限度額の検討を挙げることができる。 ①について、危険責任論の不法行為法上の意義に関して、前年度までの科研費の成果を踏まえて、判断根拠としての「特別な危険」概念の意義や実践的問題への解決能力の可能性、特別法の解釈への影響可能性を中心に、分析・検討し、日本法における無過失責任論及び民法典上の特殊な不法行為制度への展開可能性を探った。この報告の準備過程の中で、危険責任の不法行為法上の意義を明らかにするだけでなく、危険性の判断において、「危険性の質」を意識することの重要性が、危険責任のみならず、他の責任原理でも同様に問題となりうることがあきらかとなった。つまり、一方で、危険性を中心とした共通項を明らかにして各責任原理をつなげるとともに、他方で、危険性の質の相違から各責任原理の独自性を考えていくという可能性が考えられ、このことで、本研究課題のテーマである多元的責任原理の関係性を考える基礎的なフレームを見出すことができたと思っている。 ②について、危険責任の類推解釈論や一般条項論がオーストリア法において活発にみられるのは、同法において、いわゆる動的システム論が広く展開していることが理由の一つとして指摘されることから、これに取り組んだ。しかし、動的システム論の展開により、個別具体の事例の判断ではなく、よりメタのレベルで動的システム論が重要であることが指摘されることから、危険責任の個別の判断において、同論が決定的な影響を与えるわけではないことを明らかにした。 ③について、危険責任と責任限度額は、この責任原理の本質と理解する見解が有力に主張されるところ、法と経済額も含めて内外の資料の分析を通じて、必ずしも理論的に説明できるものではなく、歴史的・立法技術上の産物であることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度の計画は、①前年度積み残した危険責任特別法の検討及び②多元的責任原理の関係性を支える理論の検討であった。しかし29年度は、私法学会での個別報告準備に多くの時間を掛けざるを得ず、①及び②については、そのすべてを予定通りに進めることはできなかった。 そうした中でも、学会報告のなかで、危険責任の一般理論の構築の重要性を示すとともに、特別法で展開される各論的解釈と一般理論の関係を意識すべきこと、およびこれに基づいて、一般理論・各論の双方向的な解釈モデルの構築の必要性を示す中で、危険責任の特別法で実際上も理論上も重要な鉄道及び自動車の責任義務に関する法律における運行概念について概観をおこない、危険責任の一般理論との関係性の意識付けをしめしており、ここで①の主要な点の検討は行われていると考えている。 ②に関しても、同じく学会報告において、危険責任の一般理論の構築の中で、危険性の質を意識した判断の重要性を示し、このことは、過失責任その他の責任原理でも、それぞれの責任原理で対応するべき-それぞれの程度はあるが-危険性の質を意識すべきであり、このことで、一方で危険性に対応する責任原理として、各責任原理の共通性を明らかにしつつ、他方で、質の相違を考慮すべきために、その特異性を、解釈論において意識しなければならないことを示しており、②の問題の基礎的な部分の検討がおこなわれていると考えられる。 しかし危険責任の一般理論の検討の中で派生的に検討したものであり、各論点を正面に据えた検討ではない。これらについては、まとめの年度である平成30年度において、あわせておこなっていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究課題まとめの年である。前年度までに積み残した課題があるが、それも含めて、多元的な責任原理の関係性の関係性を支える優位な解釈モデルの構築について、検討を進めていきたい。引き続き資料の分析が中心となるが、ドイツ・オーストリアの研究者に現地でインタビューすることを考えている。成果に関しては、研究会での報告を通じて、ブラッシュアップを図り、最終的には紀要等で公刊していくことを考えている
|
Causes of Carryover |
平成29年度は、申請の段階では海外調査を予定していたところ、ちょうど秋口に子供の出産及び養育と重なったため、これを断念せざるをえなかったことが大きいと考えている。 今年度は、ドイツ及びオーストリアで研究者とのインタビューを可能であれば複数回考えており、相応の旅費及び謝金等の支出が考えられる。またコンメンタール及び教科書類の改定時期に重なっているため、これらの購入が必要となってくるものと考えている。
|
Research Products
(5 results)