2017 Fiscal Year Research-status Report
医療安全・被害補償と民事損害賠償制度の役割に関する比較法的研究
Project/Area Number |
15K16964
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
野々村 和喜 同志社大学, 法学部, 准教授 (50388039)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 不法行為 / 医療と法 / 民事責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、本研究の第3計画年度に当たる。当該年度は、実施計画に記載したところに即して、前年度から引き続き、ヨーロッパにおける民事責任・損害賠償、公的な医療損害補償制度、医療保険制度を中心とした、法状況および議論の調査および資料収集と、それらを整理する作業を継続した。特筆されることとしては、ヨーロッパでは、EU加盟国における個々の責任法の発展に関する議論と並行して、EU域内における医療サービスの平準化を目指して、関連する範囲で医療提供者の法的責任論を再検討する議論が存在していることが挙げられる。後者の議論は、EU市民に対する医療アクセスを保障するとともに、域内における人の移動の自由を保障することを念頭に置いたものである。日本の議論との関係では、社会政策的な観点から民事責任制度を機能的に再評価するという視点、および個人の医療に対するアクセス権の保障という観点が民事責任論のあり方に影響を与え得るものとして理解されている点が、極めて興味深い。日本では、私法の枠内において、一般的利益ないしgeneral publicの利益を積極的に考慮することにはなお抵抗感が強いように思われるからである。反面、議論の照準(政策目標)において若干のズレ(EU加盟国間の格差是正という観点が、日本の議論にとってどこまでの意味を有しうるかについての疑問)を感じざるをえないことも、否定し難い事実である。前年度以来注目して検討を進めている社会保険(医療保険)制度の維持という目標に加え、その他の議論を支える別の政策目標も存在するなかで、それらをどのように整理し、日本の法政策・法制度をめぐる議論との比較対照をはかるべきかは、なお慎重かつ綿密な検討を必要とする。延長後最終年度の作業課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
実績概要に記載したように、調査研究を進めるに連れて、日本における議論との比較検討に資する成果として取りまとめる上で、非常に複雑に入り組んだ議論を整理検討する必要が当初予想以上に大きいことが判明しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
実績概要に記載したところからすると、延長後最終年度に当たる2018年度の調査研究および成果取りまとめに当たっては、当初計画していたよりも規模を縮小して、個別的な主題や典型的な事例研究などの成果を複数用意して、さらなる研究の素地を整えるに止めることも選択肢と考えている。
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Causes of Carryover |
(理由)資料収集事業に関してはほぼ計画に即して実施されたが、研究計画の遅れに伴って、計画期間の延長をしたため。 (使用計画)当初計画の予算費目に従って執行する計画である。
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