2016 Fiscal Year Research-status Report
実効的なDV被害者支援につながる加害者対策に関する比較研究
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15K16974
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Research Institution | Kansai University of Welfare Sciences |
Principal Investigator |
松村 歌子 関西福祉科学大学, 健康福祉学部, 准教授 (60434875)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | DV被害者の支援 / 加害者プログラム / 女性に対する暴力 / DV防止法 / 保護命令 / 裁判所 |
Outline of Annual Research Achievements |
実際の社会では「DV」と称される暴力以外にも様々な暴力が存在しており、被害者は、DVだけでなく、児童虐待、薬物依存、貧困、家庭の問題、職場での問題など複合的な問題を抱える人も多い。暴力をふるった加害者が、加害者更正プログラムや家族療法を受け、自らの暴力の言動を認識し、暴力の責任を負い、相手を尊重していくことができれば、暴力のリスクを減らしながら、同居し続けるという選択を被害者が取ることもできるだろう。被害者支援の一環として加害者へ働きかけること、加害者プログラムや暴力全体のリスクアセスメント、暴力について詳しく知ることは、支援者や被害者の身の安全を図ることができるだけでなく、被害者の生き方の選択肢をより広げ、被害者支援の質と幅を広げることにつながる。本研究は、実効的なDV被害者支援につながる加害者対策のあり方や加害者への働きかけについて検討することを目的としている。日本のDV防止法は、あくまでも「配偶者等からの暴力の防止」と「被害者の保護」を目的としたものであり、「暴力の禁止」や「加害者の処罰や更生」を定める法律ではないため、これまでは、加害者への働きかけがあまりなされてこなかったが、これからの被害者支援は、支援の「両輪」として加害者対策にも目を向ける必要があり、加害者への適切な働きかけこそが、長期的な目で見れば、被害者支援に資すると考える。 平成28年度は、沖縄県において、DV加害者プログラムを実践している団体から、加害者の特徴や働きかけの必要性、加害者プログラムの実際などについて聞き取り調査を行ったほか、東京都において、DV加害者プログラムを実践している団体から認知行動療法の実際や加害者への介入法について学ぶことができた。今後も関連する研究会や学会への参加・報告、加害者プログラムの実践団体からの聞き取り調査を通じて、本研究に必要な情報収集を領域横断的に行いたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、国内調査では、沖縄県の児童相談所、性暴力のワンストップセンター、琉球GAIA、更生保護法人がじゅまる沖縄に訪問し、暴力の問題と被害者支援、加害者への働きかけや加害者プログラムの実際と認知行動療法について、支援者から聞き取り調査を行うことができ、多くの資料を入手することができた。国外の調査では、イギリスのコンタクトセンター、ファミリー・ジャスティス・センターなどのほか、シンガポールの被害者支援団体、弁護士、研究者、加害者プログラム実践団体などを訪問し、女性に対する暴力への対策についての法制度の現状、面会交流を中心とした家事紛争における行政や民間団体の関わりや当事者支援の状況、当事者の抱えるニーズ、加害者への働きかけの実際について学ぶことができた。 また、カナダのブリティッシュコロンビア州立司法精神医学病院においてDV加害者臨床に携わっている精神科医による研修会に参加し、加害者への介入法、ナラティブ的再犯防止プランの作り方、内的他者面接法について学ぶことができた。カナダ・ブリティッシュコロンビア州においては、DV加害者は、裁判所命令によりダイバージョンとしてのDV加害者プログラムへの参加が命じられる。グループでの加害者プログラムへの参加前の準備期段階で、自分のことを話し、振り返り、よく考える機会を設けておくことが大事であり、ジェノグラム(家族関係図)を用いて、本人にとって大切な人は誰か、本人への働きかけが可能な、キーとなる人物を探すことなどが準備期の段階で行われるという。 平成28年度は、日本女性学会、司法福祉学会、犯罪社会学会、亜細亜女性法学研究所主催シンポジウム、シェルターシンポジウム、ジェンダー法学会、全道シェルターネット研修会など、多くの学会・研修会で報告をすることができ、関連する研究者や支援者との交流を深め、意見交換を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州においてDV加害者臨床を実践している団体のもとに訪問し、加害者プログラムの実際とDVコートの運用の様子、プログラム受講に至るまでの手続、裁判所の関与、プログラム実施団体の組織運営、プログラムの質や支援者の専門性の担保の方法などについて調査をする予定であり、訪問日時や訪問先の調整を行っているところである。日本で実践されている認知行動療法を主とする加害者プログラムと、ナラティブアプローチに基づく加害者プログラムの実際について比較検討したい。その他、国内外において加害者プログラムを実践している団体について調査を進める。 さらなる研究調査に加えて、平成29年度は、研究結果をまとめる作業に取り掛かることにする。これまでの聞き取り調査で得られた研究成果について、関連する学会やシンポジウム・研究会に参加し、情報収集及び関連する研究者や支援者との交流を深め、意見交換を行う等をして研究を進める。この研究を通じて得た知見は、日本女性学会、司法福祉学会、亜細亜女性法學会、シェルターシンポジウム、ジェンダー法学会などの場で報告を行い、学会等を通じて情報を共有し意見交換を行い、成果報告書を作成する。
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Causes of Carryover |
年度途中において、次年度カナダを訪問し、加害者プログラムの実践及び加害者臨床の実際、DVコートの運用について調査する計画が濃厚となったことから、研究費用を残しておく必要が生じたため。平成28年度未使用分は、平成29年度へ繰越しを行う。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の長期休暇中にカナダ・ブリティッシュコロンビア州を訪問し、加害者プログラムの実践や加害者臨床の実際、DVコートの運用について調査する費用の一部として使用する。
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