2016 Fiscal Year Research-status Report
日本本土空襲前後の重層的データを用いた社会資本が政治参加に与える影響の因果分析
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15K16977
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
原田 勝孝 福岡大学, 経済学部, 准教授 (30738810)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会関係資本 / 感度分析 / 因果推論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は第二次世界大戦末期の日本本土空襲でsocial capital(※以降、社会関係資本と表記)を担うコミュニティの多くが壊滅的な被害を受けたことを用いて、こうした大規模破壊イベントが社会関係資本に与える影響および社会関係資本レベルの外因的な変化を用いて、社会関係資本が投票参加や自発的な社会組織加入に与える影響を因果推論的に実証するものであるが、大きな研究課題としては都道府県や都市、町丁目等のデータベース構築と因果推論実施のための方法論の開発があり、その成果を査読付き海外学術誌に研究論文として発表することを究極的な目標としている。
因果推論実施のための方法論の開発については、パネルデータや都道府県―市町村-有権者といった入れ子構造のデータ(以下、マルチレベルデータ)では既にCarnegie, Harada and Hill (2016)で開発した感度分析では推定バイアスが生じることが分かっていた。そのため、2016年度はマルチレベルデータにおける感度分析の手法を開発を行った。現在は論文執筆の最終段階であり、今年度中に英文査読誌に投稿予定である。
今年度、実施予定であった参院選前後のサーベイ調査については次項で述べる理由により、未だ実施していない。サーベイ調査の実施については代表者の予算では1000人程度の調査になるという回答を日経リサーチより得ているが、実際に使えるサンプルという点ではSatisficingの影響により200にも満たないと考えられる。したがって、業者委託レベルの変更や代替手段も含めて検討している。データベースの作成については航空写真から空襲の被害状況を解析するプログラムを(若手Bは共同研究者を設置できないので私的な)共同研究者と共に開発を開始した。分析ではそれをトリートメント変数として用いる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
大変不本意であるが遅れている理由は3点ある。まずは当初予定していたインターネットによる調査に伴う問題点が研究に深刻な影響を及ぼしうることがわかったことが挙げられる。具体的にはインターネット調査ではこちらの質問に対して適当に回答するだけのいわゆるSatisficingを行う回答者が8割程度にのぼることが先行研究より明らかになった。このため、調査地点の住所について正確な情報を把握しつつ良好なサンプルを十分数確保するために、調査会社の利用をやめ学生アルバイトを利用することも含めて検討し直しているところである。2点目には研究課題が拡大したことがあげられる。具体的には当初、画像を目視して空襲による爆撃の有無を判定する予定であったが、(若手研究Bでは共同研究者を加えることはできないが)研究課題に賛同する研究者の協力を得、機械学習による画像処理で空爆の有無を判定する方針に変更した。これに伴い、画像のオルソ化等の追加的業務が増えたことが挙げられる。3点目は代表者本人の体調不良によるものである。具体的には昨年秋に幼稚園の運動会で加害者側の男性に衝突され、頚椎ヘルニアを発症した。現在、相手側の過失認定を求め係争中であるが、この影響で肘から指先にしびれと痛みが残り、日常生活やその他業務に全般的な遅滞が生じるようになった。また処方薬のリリカ錠の副作用として傾眠があるため睡眠時間が1日で1時間程度延長した。これらにより、研究課題に十分な時間をとることが困難となった。
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べた通り、今年度はまずパネルデータや都道府県―市町村-有権者といった入れ子構造のデータ(以下、マルチレベルデータ)における感度分析の共著論文を海外査読誌に投稿する予定である。 また当初、参院選後に実施する予定であったサーベイ調査は、今年7月の都知事選の後に行うことを予定している。この選挙を調査対象とするのは記憶違いによるリコールバイアスを最小化するために最適であること、また地方選挙は全般的に投票率が低く、そうした選挙においてより社会関係資本の効果は測定しやすいこと、そして空襲による被害のデータ化を進めているのが東京都であることから妥当であると考えている。 データベース化作業については当初予定であった地域データは社会経済環境変数については別の研究者の手で既に整備されつつあるが、本研究課題独自の貢献として各地域の空襲被害を航空写真より識別したものをデータベースしたものが成果となる見込みである。 これと併せて、都道府県・市町村のアグリゲートデータを用いた論文の投稿も行う予定である。
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Causes of Carryover |
上述の事情により、計画に遅れが生じているため、当初行う予定であったサーベイ調査をまだ実施していないことが次年度使用額が多額に上っていることの理由である。とりわけ、研究代表者にとって自身が中心となって行う初めてのフィールド実験であるため、必要経費等が想定以上にかかる場合に備え、研究費の使用はフィールド実験が終わるまでは抑制している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上で述べたようにサーベイ調査の実施と研究成果の学会における発表の旅費に主に支出する予定である。また空襲被害を画像処理する際に航空写真に地理情報を埋め込む必要があり、その作業を行うための人件費として使用する予定である。
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