2015 Fiscal Year Research-status Report
集団訴訟の伝播に関する政治学的研究:水俣病訴訟を起点として
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15K16980
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
土肥 勲嗣 久留米大学, 法学部, 講師 (00507973)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 集団訴訟 / 水俣病訴訟 / ハンセン病違憲国賠訴訟 / 川辺川利水訴訟 / 薬害エイズ訴訟 / 集合行為の伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度に実施した研究の主な成果は次の2点である。 第1に、従来、政治学においてあまり注目されてこなかった集団訴訟に着目し、欧米圏の理論枠組みを手掛かりとして、集団訴訟が裁判をとおして政治過程に影響を与えている現象を実証的に検討した。より具体的には、九州で提起された集団訴訟群の関連を、「集合行為の伝播(diffusion)」という概念を手掛かりに分析し、水俣病訴訟との関連に着目して、資料解釈および面接調査に基づき考察をおこなった。その結果、川辺川利水訴訟、ハンセン病違憲国賠訴訟について、水俣病訴訟との関連があることを確認することができた。なお、以上の研究成果の一部は、韓国翰林大学で開催された国際学術大会において「裁判で政治を変える:集団訴訟の政治学的研究」と題する報告をおこなった。 第2に、本研究の分析対象のひとつとして選択したハンセン病違憲国賠訴訟に関する資料解釈および面接調査を実施した結果、次の2点が明らかとなった。ひとつは、ハンセン病違憲国賠訴訟は、水俣病訴訟との関連がある一方で、薬害エイズ訴訟との関連に着目すべき必要があること。いまひとつは、ハンセン病違憲国賠訴訟と韓国・台湾ハンセン病訴訟は密接な関連があることが明らかになった。なお、以上の研究成果の一部は、東アジア学会において「集団訴訟の伝播に関する政治学的研究:韓国・台湾ハンセン病訴訟を事例として」と題する報告をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予期しえない所属先の変更にともない研究環境が大きく変化し、新しい研究環境に順応するのに時間を要したことが進捗状況を「おおむね順調に進展している」ではなく、「やや遅れている」と自己評価した主な理由である。他方、ハンセン病訴訟にみられる「国境を越えた集団訴訟の伝播」仮説の提示など当初予期していなかった研究の進展がみられたのも事実であるため、「遅れている」ではなく「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降は、第1に、平成27年度と同様に、集団訴訟に関連する国内外の資料の収集および解釈を実施し、日本における集団訴訟の関連を明らかにする作業に従事する。理論の分野では、政治学に限らず、社会学、法学、法社会学の知見を検討する。集団訴訟については、九州の集団訴訟に限定せず、四大公害訴訟をはじめとする全国の集団訴訟の資料収集および解釈に従事する。第2に、研究計画に基づき、九州における集団訴訟の関係者の聞き取り調査を実施する。また文献調査および面接調査より得られたデータから集団訴訟現象のモデル化をおこなう。なお、平成28年度は、以上の研究成果の一部を、世界政治学会および日本政治学会において発表する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では国際学会の報告予定として旅費の支出を計上していたが、韓国日本学会からの招聘講演となり、旅費の支出が不要となったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、翌年度分として請求した助成金とは別に、主に海外への旅費として使用することを計画している。
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