2015 Fiscal Year Research-status Report
ベンサムの国際法論と国際秩序構想の政治思想史的研究
Project/Area Number |
15K16985
|
Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
小畑 俊太郎 成蹊大学, 法学部, 助教 (80423820)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ベンサム / 功利主義 / 戦争 / 国際法 / 主権国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主たる研究課題として、(1)ベンサムの国際法論と国際秩序構想に関連する未刊行資料の調査・収集、および(2)ベンサムの国際法論において国家間の規律原理として提示されている功利主義=「最大多数の最大幸福」の概念の分析を進めた。(1)については、ブリティッシュ・ライブラリーにおいて、ベンサムの国際法の法典化構想論や国際法をめぐるジャベッツ・ヘンリーとの長大な往復書簡、さらにベンサムが『ザ・フェデラリスト』(1802年版)に記入した下線や覚書などを筆写することができた。また、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンでは、『ベンサム著作集』を編集・刊行している「ベンサム・プロジェクト」に所蔵されている「反マキァヴェリ論」や、国際関係に関する様々な草稿などの貴重な未刊行資料も入手することができた。ベンサムの国際関係論は、信頼できる入手可能な資料が少ないこともあってこれまで必ずしも十分に検討されてきていないが、これらの未刊行資料は、その内容と特質を解明するうえで大いに有益である。(2)については、収集した未刊行資料の分析も踏まえつつ、国家間の規律原理としての功利主義=「最大多数の最大幸福」が、社会全体の「幸福」を「最大化」する積極的原理としてよりも、社会全体の「不幸」を「最小化」する消極的原理として提示されていることを明らかにした。功利主義はしばしば、その特質として「幸福最大化」を挙げられるが、むしろ「不幸最小化」こそがベンサム的功利主義の要諦であると考えられる。以上の分析結果については、科研費研究集会「功利主義はどこまで有効か?:法と経済と科学」(「功利主義と公共性」23330067と「幸福、存続、ウェルビーングの思想基盤」15H03164の共催)において、「「最大多数の最大幸福」再考――不正義論としての功利主義」と題した報告を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記(1)の未刊行資料の調査・収集に関しては、当初の想定以上の成果を挙げることができた。あらかじめ、「ベンサム・プロジェクト」のジェネラル・エディターであるフィリップ・スコフィールド教授を訪問し、資料の整理状況について示唆を得たことが、効率的な作業につながった。ただし、調査・収集した資料はかなりの分量にのぼるため、その詳細な分析はなお継続中であり、次年度も引き続き検討していく必要がある。(2)の功利主義=「最大多数の最大幸福」の基本的特質の解明についても、研究会で報告するなど順調に進展している。なお本研究の成果は次年度に刊行予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、昨年度に収集した未刊行資料の分析と並行しつつ、ベンサムの国際法論と国際秩序構想の具体的内容を解明する。とりわけ、「戦争」をめぐるベンサムの言説は、戦争が最大の害悪をもたらす行為として位置づけられている以上(‘A Plan for an Universal and Perpetual Peace')、功利主義的にきわめて重要なはずである。そこで、ベンサムの戦争論の功利主義的特質について、ジェイムズ・ミルなどの他の功利主義者の、さらにはルソーやカントなどの非功利主義者の戦争論と比較しつつ、その独自性を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
今年度は、ブリティッシュ・ライブラリーおよびユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンにおける未刊行資料の調査・収集と分析に力を入れたため、既刊資料の収集および分析は次年度に行うことになった。そのため、これらの作業に伴う研究費も、次年度に繰り越すこととなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究費は、本年度と同様に未刊行資料の調査・収集に充てるだけでなく、既刊資料の収集と分析にも集中的に使用する。とりわけ、ベンサムと同時代の国際法や戦争をめぐる政治的言説状況を解明するために、関連する一次資料および二次資料を早急に整備する。また、学会および研究会にも積極的に参加して、研究成果の報告や研究交流を深めることにも使用する予定である。
|