2016 Fiscal Year Research-status Report
ベンサムの国際法論と国際秩序構想の政治思想史的研究
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15K16985
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
小畑 俊太郎 甲南大学, 法学部, 准教授 (80423820)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 功利主義 / ベンサム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究業績としては、第一に、論文として「功利主義と不正義――ベンサム:快苦の非対称性」(姜尚中・齋藤純一編)『逆光の政治哲学――不正義から問い返す』(法律文化社、2016年)を刊行した。本稿では、同量の快楽と苦痛であれば人間は苦痛により敏感に反応するというベンサムの心理学(「精神病理学の公理」)に焦点を当てて、ベンサムの功利主義の特質を、「悪(苦痛)の削減」を主たる立法の課題と見なす不正義論として提示した。すなわち、これまで功利主義の最大の特質と見なされてきた社会全体の幸福の「最大化(maximization)」とは、具体的には立法者による「悪(苦痛)の削減」を通じて間接的に達成されるべきものとされていることを明らかにした。 第二に、学会報告として、南山大学で開催された日本イギリス哲学会第41回研究大会シンポジウムⅡ「功利主義と人間の尊厳」において、「統治原理としての功利主義――ベンサムの『人格の尊厳』批判とその意味」と題する第一報告を行った。本報告では、社会全体の幸福最大化のために無実の人間は犠牲にされるといった典型的な功利主義批判を念頭に、ベンサムの功利主義はそうした犠牲を認めていないこと、さらに重要な論点として、ベンサムの同性愛擁護論の分析を通して、カントを代表とする「人間の尊厳」の思想が否定してきた新たな自由と生活様式を提唱したベンサムの功利主義独自の意義を明らかにした。 そして第三に、深貝保則横浜国立大学教授の科研費との共催で、フランスから功利主義研究者のMalik BOZZO-REY氏を招聘してワークショップを開催し、功利主義をめぐる学際的研究の発展に貢献した(2016年12月14日・15日に同志社大学にて開催)。当日は多くの参加者のもと、ベンサムの間接立法論に関するテーマについて活発な議論が展開された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、これまで、国際政治において立法者の指針となる功利主義哲学の特質を解明することにおいて、当初の計画以上に進展してきている。昨年度ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンとブリティッシュ・ライブラリーにおいて収集したベンサムの未刊資料も、本研究の推進においておおいに活用されてきている。ただし、平成28年度は大学の勤務先が変わったという個人的事情もあって、本研究のためのエフォート率がやや低下せざるを得なかった。この点で、総合的評価としてはおおむね順調に進展しているが妥当と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度と同様、学会やワークショップに積極的に参加し、報告を行う。また、日本イギリス哲学会研究大会での報告など、学会等で報告した内容は何らかの形で論文として活字化する。そして可能であれば、これまでの研究から見えてきた新たな課題の遂行のために、再びイギリスにおいてベンサムを中心とする関連資料の収集に努めたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、当初予定していた夏季休暇中における海外出張を学務や学会報告原稿の締切等のために断念せざるを得なかったことにある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度では、文献の収集や国内学会および研究会への出席として使用するほか、海外出張による使用を予定している。
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