2015 Fiscal Year Research-status Report
ポスト革命期フランスにおける「行政の専制」の生成とその構造の思想史的研究
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15K16988
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
高山 裕二 明治大学, 政治経済学部, 講師 (90453969)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ボナパルティズム / トクヴィル / 専制 / ミシェル・シュヴァリエ / フランス第二帝政 / サン=シモン主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は、大きく分けて2点ある。1点は、専制の概念史を整理し、トクヴィルの「行政の専制」の概念の特質を明らかにしたことである。古代ギリシアから近代フランスにいたる「専制」概念の持続と変容を、様々な思想家(アリストテレスからホッブズ、コンスタンまで)のテクストの分析を通じて明らかにした。また、トクヴィルの専制論が概念史の系譜を継承していることを確認する一方で、それを生成させる民主的な論理と心理を明らかにしたところに彼の議論の独自性があることを指摘した。その成果は、論考「自由のないデモクラシー――トクヴィルの「行政の専制」概念」として発表された。これは、本研究が今後フランス第二帝政の「行政の専制」としてのボナパルティズムを検討していくにあたって、大きな分析枠組みを提供する類の成果である。 もう1点は、フランス第二帝政のブレーンと言われるミシェル・シュヴァリエの政治経済思想を総合的に分析したことである。シュヴァリエは、サン=シモン主義者として出発しながら経済的自由主義者(エコノミスト)に転向したと言われるが、「モノ」とその増大への信仰において(サン=シモン主義者として)一貫していたこと、また彼の思想のもとに第二帝政では行政権力の集中が推進されたことを明らかにした。これは共同研究の成果であり、共編著『共和国か宗教か、それとも――十九世紀フランスの光と闇』として公刊された。この研究は、ボナパルティズムの思想がサン=シモン主義の影響のもとに形成されたことを十分に仮定させるもので、今後ルイ=ナポレオンの政治思想を分析していくうえで、大きな見通しを与える成果であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究業績の概要」で示したように、本研究全体の分析枠組みとなる「専制」の概念史の検討をおおむね順調に進めることができた。また、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』の思想を「専制」を軸に概観した(それは中公クラシックス版訳書の「解説」として公表した)。さらに、ミシェル・シュヴァリエのテクストを総合的に分析したが、これは次年度に進める予定であったフランス第二帝政の政治経済思想の分析を先取りするもので、この点では計画以上に研究が進展していると言うことができる。 ただ、1年目で行う予定であった復古王政期の保守派(王党派)の分析はほとんど進めることができなかった。この時期の先行研究の渉猟はおおむね順調に進展させることができたが、雑誌『保守主義者』の論考の分析には着手できていない。また、『アンシャン・レジームと革命』の(刊行されている全集で入手しうる)草稿の分析を進展させることを優先した結果、フランスへの海外出張によって遂行する予定だった(フランスで入手できる)原稿(MF)の分析には着手できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で示したように、次年度に積み残した課題である雑誌『保守主義者』の論考の分析に着手する一方で、次の二点が今後の研究課題の中心となる。1点は、『アンシャン・レジームと革命』(第1巻及び第2巻)の草稿を含めた読解である。その際、トクヴィルが本書を執筆するうえで参考にした(と草稿で示されている)著書も合わせて検討することで、そのボナパルティズム批判の要点を浮き彫りにできるはずである。そして、必要に応じて海外出張し、テクストの渉猟を遂行する。 もう1点は、ルイ=ナポレオンの政治思想を解明することである。これまでも分析してきたナポレオン三世の著書以外にも、広く彼の著書、時には書簡等を分析することを通して、そのサン=シモン主義としての性格を明らかにすることができるはずである。また、フランス第二帝政の政治制度のほか、当時の文学の検討も進めることで、その専制の時代の精神史を浮かびあがらせることを通じて、トクヴィルの「行政の専制」の利点とともに弱点を指摘する。これらの成果は雑誌等で発表しながら整理していくことにする。
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Causes of Carryover |
上記の「現在までの進捗状況」で示したように、予定していた海外出張に行かなかったため、当該助成金が生じた。海外出張で遂行する予定であった草稿(MF)研究の前段階として、『アンシャン・レジームと革命』の本文とその(公刊されている)草稿の研究に時間を費やすことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に予定していた通り、海外出張の費用に充当する予定である。そのために、『アンシャン・レジームと革命』の草稿研究を進展させる。
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Research Products
(3 results)