2015 Fiscal Year Research-status Report
内戦における市民アイデンティティの形成と変容に関する比較研究
Project/Area Number |
15K17000
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Research Institution | University of Niigata Prefecture |
Principal Investigator |
窪田 悠一 新潟県立大学, 国際地域学部, 講師 (40710075)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アイデンティティ / ガバナンス / 内戦 / スリランカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、内戦を通じた一般市民のアイデンティティの形成、また変容に関する理論的考察及び実証分析を行うことである。特に、なぜ、ある内戦では市民の国家に対する帰属意識が希薄化し、民族などの政治社会集団に対するアイデンティティが強まる一方で、他の内戦事例ではこうしたアイデンティティの顕在化がみられないのかという問題を、1)内戦中の市民の経験や2)反乱軍による領域統治の両側面から説明することを試みている。
平成27年度には、スリランカ北・東部において質問票調査を実施した。調査結果からは、市民の「反乱軍国家」の認識が内戦後のサブナショナルな対象に対する親近感の形成を促進していることが分かった。これは、反乱軍によるガバナンスの影響が内戦後も残り続け、市民アイデンティティに作用し続けていることを示唆している。対照的に、市民の暴力被害の経験はサブナショナル・アイデンティティの形成に影響を及ぼしていないことがわかった。これらの点は、内戦後復興を考える上では、「反乱軍国家」の長期的な影響を考慮する必要があることなどを示していると言えよう。
これまでの先行研究では、社会集団の間に不信感や不寛容を生み出す暴力の結果として、内戦後国家における共通のアイデンティティが欠如が生じているものと考えられてきた。しかしながら、そうした研究では暴力とアイデンティティの間に関係があることが必ずしも実証されているわけではない。本研究のここまでの結果からは、内戦中においても公共サービスの提供といった非暴力的な側面が民軍関係に大きな影響を及ぼしていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、平成27年度中にネパールにおける質問票調査を実施する予定であった。しかしながら、4月に発生した地震によって大きな被害が生じたため、現地における調査を延期した。震災後の復興の進展具合によっては調査結果に影響を及ぼすことが予想されるため、年度中の調査を実施せずに、代替的にスリランカにおける調査を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、まずインドネシア・アチェ州における質問票調査の実施を考えている。ここではスリランカ調査で用いた質問票・項目を用いることで、両事例の比較を試みる。調査結果は、学術レポートや論文の形でまとめるとともに、学会やセミナーなどで報告し、広く公開する予定である。
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Causes of Carryover |
物品の購入やその他の支出を行ったが、残額が追加の支出を行うには少額であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
調査委託料や図書などの物品の購入に充てる。
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Research Products
(4 results)