2015 Fiscal Year Research-status Report
ポスト近代の軍事組織の機能 と自衛隊の国際平和協力
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15K17001
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
本多 倫彬 早稲田大学, 付置研究所, その他 (30750103)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 平和活動 / 平和構築 / 国際平和協力 / 人道支援・災害救援 / 自衛隊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際平和協力の発展史を、エンジニアリング・ピースを基盤に分析枠組みを設定した上で、ポスト近代の軍事組織の役割の観点から描き出すことを企図している。このため一年目にあたる本年は、分析枠組み構築を優先課題とした。 研究の焦点は、第一にエンジニアリング・ピースを巡るこれまでの議論を整理しつつ、平和活動の国際潮流を分析することである。第二に、ポスト近代の軍事組織の役割について、特に2000年代初頭を形作った対テロ戦争の時代と、それを踏まえたポスト対テロ戦争の時代のそれを考察することである。第三に、発展史として描き出す基盤となる国際平和協力活動について、特に自衛隊に注目して整理検討を行うことである。いずれの課題も、それぞれ論文等の形で公刊するに至った。また本研究のスタートに当たり、研究の骨子について学会報告(2015.2)を行って様々なアドバイスを頂き、フィードバックを行った。以上の研究を通じて1年目終了時点で、考察の前提となる分析枠組みの構築と事実整理をほぼ完了した。 構築した分析枠組みは、平和活動や災害救援活動に軍隊が積極的に取り組むという現象を踏まえて、その中で「軍隊自身が求められる変革とは何か?」という点に基盤を置くものである。「非伝統的」任務では、相手国・国民および当該地域全体での派遣元国のプレゼンス拡大や安定化が目標にある。この政治的目標の達成のため、軍隊は敵(を効率よく倒すこと)ではなく、人びとの福祉の向上に焦点を当てることが求められる。スマートパワーとも称される非伝統的任務は、軍隊にとっての本来的役割ではないという方向性を持つがゆえに、軍隊の任務のあり方に「破壊⇒建設」への転換を求めてきた。同時にこうした現象は、「戦闘に特化するものではない」という意味で近代以前の軍隊像への揺り戻しであり、「軍隊の先祖帰り」現象と位置付けられることを提示してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、1年目は研究基盤固めであり、特に積極的な対外的公表は想定していなかった。しかしながら、研究基盤構築に際して注目した軍隊の非伝統的任務、エンジアリング・ピース等について、2015年度に国連が15年ぶりに平和活動の基礎文書を改訂し(国連ハイレベルパネル報告書)、日本政府が国際平和協力活動に関する法律を変更する(平和・安全保障法制)など、国際・国内で大きな動きがあった。これにより、主たる研究課題を明らかにするために必要なものと考えて進めてきた研究課題が、それ自体として研究の対象となる機会が増加した。このため、学術論文や図書の形で公表することができた。研究成果の公表については、公表することそれ自体のみならず、テーマに関心が集まり実務・研究両面で議論が活発になったことで、さまざまな形でフィードバックを得る機会となったことは幸運であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、ここまでの研究成果を踏まえて、当初目標である「国際平和協力の発展史を、エンジニアリング・ピースを基盤に分析枠組みを設定した上で、ポスト近代の軍事組織の役割の観点から描き出す」ことを目標とする。 最終目標は研究成果をまとめた書籍の出版となるが、あわせて本年度はこれまでの研究成果を学会報告の形で公表していく。 なお、本報告書作成時点で、さらに「平和構築における現地の軍隊」に焦点を当てた論文と、自衛隊の国際平和協力活動をエンジニアリング・ピースに基づいて考察するにあたって不可欠な役割を担っていることが明らかとなった開発機関、特に国際協力機構における平和構築の議論に注目した論文の執筆を進めている。これらの研究成果をも踏まえて、研究を仕上げていく予定である。 また、本研究が焦点を当てる課題(軍隊の非伝統的役割)は、前述のように現在大きく変容している生きた課題である。したがって本年度の研究に当たっても、国内外の最新の実務・研究に注意を払いつつ、積極的に情報を収集し、それらの知見を研究にフィードバックすることを企図していく。
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Causes of Carryover |
1年目の研究遂行にあたり出張等の経費が生じることを想定していたが、2015年度に研究課題を取り巻く外部環境が激変したことで、その情報収集・研究に力点を置くこととなった。このため、出張よりもデスクワーク、また有料の書籍等よりもウェブ公開されるデータ等を扱う機会が増え、結果として経費の発生する作業の一部を翌年に繰り越すことにつながったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の出張等の経費および書籍を中心とする物品費に適用する。
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Research Products
(3 results)