2015 Fiscal Year Research-status Report
東北アジア地域秩序におけるサブリージョン協力の有効性に関する研究
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15K17010
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
中山 賢司 創価大学, 法学部, 講師 (10632002)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | サブリージョン協力 / 東北アジア / 北東アジア地域自治体連合 / 領土問題 / 環境協力 |
Outline of Annual Research Achievements |
東北アジアをめぐる国際関係は、一方で、勢力均衡型国際秩序の下、多くの対立契機を胚胎している。他方で、自治体越境ネットワークなど自律的な下位地域(サブリージョン)協力も進んでいる。本研究では、東北アジア地域秩序におけるサブリージョン協力に着目し、その有効性を検討することが目的である。 初年度は、ナショナリズムを迫り上げる「領土問題」と、それを組み換える「サブリージョン協力」という逆ベクトルのダイナミズムに焦点を当て、サブリージョン協力の有効性を検討した。具体的には、日韓の竹島/独島領有権問題を事例に、2005年の島根県「竹島の日」条例制定と、東北アジア最大の自治体越境ネットワーク「北東アジア地域自治体連合(NEAR)」における政治過程を考察した。現地調査としては、島根県の担当部局や当時の関係者へのインタビュー調査、NEAR事務局、竹島資料室、独島博物館、独島体験館などでの資料収集やヒアリングを行った。 考察結果から見えてきたことは、サブリージョン協力としてのNEARには、領土の領有権をめぐって国家間の緊張が激化した際に、その関係性をローカルな次元で組み換える機能があったことである。地方的公共空間における「コミュニケーション装置」として、非日常を日常へと回復させる力(レジリエンス)を緩やかに果たしたのが、サブリージョン協力であったとの知見を得た。本研究は、萌芽的な事象を過程追跡したに過ぎないが、サブリージョン協力の有効性を検証した数少ない事例研究の一つとして、その学術的・社会的意義は大きい。 以上の成果は、着想の一部を、北東アジア学会関東地区サテライト研究会(2015年4月、慶應大学)、北東アジア学会第21回全国学術大会(2015年10月、富山大学)で発表し、論文としては、科研費報告書『東アジアにおけるサブリージョナル・ガバナンスの研究』(2016年)において公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、サブリージョン協力の中で涵養される他者肯定型の規範性や市民性が、国家間で利害が対立する問題への有効なツールとなり得るのか、という点を検討することである。 初年度は、領土問題をケースに、サブリージョン協力の萌芽的事象を過程追跡する中から、その有効性を抽出し一定の知見を得た。しかし、「コミュニケーション装置」としてのサブリージョン協力が「なぜ機能するのか」に関する考察は十分になされていない。サブリージョン協力で涵養される規範性や市民性が、地域秩序にどのような形で注入され受容されていくのかについては、いま一つ判然としない。 これらの積み残された課題を追究するためには、よりローカルな視点の奥深くに分け入って、「地方の論理」を掘り起こす必要がある。たとえば、日韓両国の地方紙や地方議会議事録の分析のほか、NGOや関係団体などの様々なステークホルダーへのヒアリング調査を行い、サブリージョン協力がステークホルダーに与えた影響、社会的認知度などを考察することが求められる。 以上の課題は引き続き検討し、最終年度の研究成果とりまとめに反映させる方針である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、領土問題という争点領域に焦点を当て、サブリージョン協力の有効性を検討した。本年度は、初年度に積み残した課題を継続して考察するとともに、越境環境汚染という争点領域に焦点を当て、サブリージョン協力の政治過程を考察する。 越境環境汚染問題は、国家間の協力が不可欠な分野であるにもかかわらず、汚染発生源の特定や責任の追及などにより国家間の対立が顕在化するケースがある。その一方で、ローカルのイニシアティブによる協力関係も観察できる。サブリージョナルな地方公共空間では、生活に密着した市民性が涵養され、国家間で利害が対立する問題を相対化させる可能性をもつ。 本年度は、以上の点を検証するため、NEAR、東アジア都市会議/東アジア経済交流推進機構(OEAED)、北東アジア国際交流・協力地方政府サミット、環日本海拠点都市会議という4つの自治体越境ネットワークを事例に、ローカル次元の環境協力をめぐる政治過程の比較事例考察を行う。現地調査としては、地方政府のほか、環境NGOや関連団体など様々なステークホルダーにもヒアリングを行い、各ネットワークの環境協力がステークホルダーに与えた影響や社会的認知度などを明らかにする。 考察成果は、学会報告や学会誌・紀要などへの論文投稿などにより、広く公表する。
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Causes of Carryover |
大学の授業・入試等の公務により、一部の学会参加を見送らざるを得なくなったほか、現地調査の日程を短縮する必要があったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の現地調査を質量ともに一層充実したものとするほか、国際研究集会などの経費に充当する。
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Research Products
(4 results)