2015 Fiscal Year Research-status Report
医療技術進歩依存の内生的寿命を伴う動学マクロモデルの構築とその拡張・応用
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15K17030
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Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
川岸 岳人 帝塚山大学, 経済学部, 講師 (00708977)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 医療 / 技術進歩 / 寿命 / 経済成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に医療技術進歩に依存する内生的寿命を伴う世代重複モデルを構築し、これを基本モデルとしてBalanced Growth Path (BGP)の存在や安定性、さらにこうした設定がもたらす経済成長率への影響を分析した。なお、当初の計画では消費財部門と医療財部門を分けたモデルを想定していたが、モデル分析の複雑さの回避、広範な応用可能性を念頭に部門を統合した形に簡単化している。これに伴い医療技術進歩依存の内生的寿命についても、政府の技術進歩投資を通じて生産性が上昇し、財の生産量が増加する形で個人の医療財購入量も増え、それにより寿命が延伸していく形に改めている。また政策の観点からは、部門の統合により計画段階の医療財部門への補助金政策ではなく、政府の技術進歩投資の財源である家計の所得税に焦点を当てたものに変更している。モデル分析の結果としては所得税率の大きさにより、経済が定常状態にとどまるケース(経済成長率がゼロのケース)、経済成長率がプラスとなり持続的成長が可能となるケース、経済成長率がマイナスとなり経済が縮小していくケースの3つが存在することが明らかとなっている。しかしながら、同時にBGPは安定的でないという結果も得られたため、このままでは政策的な分析は不安定な経済を対象にしてしまうという点で有意なものとはならない。個人の医療財購入量のみに依存させる形での寿命の内生化がBGPの不安定性をもたらしている可能性があるため、目下のところこの点を改善し安定的なBGPをもたらすようモデルを修正中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたように、平成27年度は医療技術進歩に依存する内生的寿命を世代重複モデルに組み込んだ基本モデルの分析を行ったが、Balanced Growth Path (BGP)については存在するものの不安定となることが明らかとなった。このため、政策的な分析においては対象が不安定な経済となってしまうことから有益な議論とはならない。したがって、基本モデルの構築という点については研究実績の概要で述べたような結果を導出したという点で一定程度進展はあるものの、政策的な観点からは目下有益な議論を行うことが難しい状況であると言わざるを得ない。なお現在は、BGPの不安定性が生じる原因の究明を行い、安定的なBGPをもたらす形への基本モデルの修正を試みている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要および現在までの進捗状況における記述より、目下のところBalanced Growth Path (BGP)が安定的となるようなモデルの構築を行うことが急務である。寿命にプラスに作用する個人の医療財購入量のみに依存させる形で寿命の内生化を図ったことがBGPの不安定性をもたらしている可能性があるため、そこに寿命に負の影響を与えるもの(例えば健康に悪影響を与える財の購入)を加味し、安定的なBGPの導出を目指していく。 この一方で、個人の医療財購入量という内生変数依存の寿命はモデルを複雑化させる傾向にある。数値解析の導入によりこうしたモデル分析の複雑さは緩和されるとの予想であったが、実際には数値解析可能な形を導出するだけでも困難な状況となっている。よって、モデルの広範な応用可能性という観点からは複雑さを回避することも重要である。こうした複雑さの回避としては、寿命を個人の医療財購入量といった内生変数ではなく外生変数(例えば政府の公的医療)に依存させ、医療技術進歩をそうした外生変数と結び付けることが考えられる。そうした設定のモデル分析と目下修正中のモデル分析とを比較し、分析の複雑さの回避と広範な応用可能性という観点からより有益なものを基本モデルとして改めて設定したいと考えている。 以上より、今後の研究展開としては、まず安定的なBGPをもたらすようモデルの修正を行い、これと並行して医療技術進歩を外生変数と結び付けたモデル分析も行っていく。そしてそれらの比較によりどちらがより有益なモデルかを検証し、その上で当初の研究計画にある医療技術進歩と環境要因や年金システムとの関係を論じていく方針である。
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Causes of Carryover |
研究環境の整備を図ることに重点を置き、先端の研究等に関する書籍や資料の購入を検討していたが、既に手元にある書籍や資料でカバーできる内容が想定よりも多かったため、そうしたものの購入を見送ったことが主たる原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画の一部修正により、書籍等による先行研究のサーベイが新たに必要になってくると思われるため、そうした費用に充てていく考えである。また、この計画修正により査読誌への投稿費用等が追加で必要となった場合、そちらにも回す計画である。
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Research Products
(2 results)