2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K17032
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 崇史 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 研究員 (50614707)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ピグー / 自由貿易論 / 『財政の研究』 / マーシャル / 弾力性 / 『貨幣信用貿易』 / ケンブリッジ学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、本研究の基礎となる後期ピグーの貿易論を『財政の研究』の中から導出し、それを整理することに努めた。特に、初版・第2版と、第3版との間では論じられる内容に目に見える違いがあるので、その点に注意して、理論的な内容、政策の方向性に関する内容、ピグーに影響を与えたマーシャルの議論と関連する内容にそれぞれ分類して、ピグー貿易論を整理した。また、内外の先行研究の収集・整理を行った。 ピグーの経済学がマーシャルの影響を受けていることは、周知の事実である。貿易論についても、同様に解釈するのが一般的である。とりわけ、両者が20世紀初頭の関税改革論争において共に自由貿易陣営に属したこと、その自由貿易擁護の立場がマーシャルがピグーに教授職を譲った理由の一つとして解釈されていることなどに、貿易論における両者の関係性が見出されてきた。 他方で貿易論において、具体的にどの点にその影響を見出すことができるのか、についての研究は不十分だった。しかし本年度の研究によって、ピグーが種々の「弾力性」を用いた分析の方向性を示したこと、マーシャルの貿易論の主著である『貨幣信用貿易』をベースにした貿易論の構築を模索したこと、などが明らかになった。ここに、貿易論における両者の直接的影響関係を見出すことができる。 併せて、マーシャルの経済学を現実に応用しようとするピグーの模索が垣間見える『マーシャルと現代思想』に基づいて、マーシャルに対するピグーの評価の一端を明らかにした。そして、マーシャルの「弾力性」概念をピグーが高く評価したことが分かった。これらから、ピグーがマーシャルの「弾力性」概念を継承して、それを貿易論に応用することを目指した点に後期ピグー貿易論の特徴がある、と考えられる。本研究によって、20世紀前半の自由貿易論の発展過程、およびケンブリッジ学派経済学の継承過程の一端を理解することが可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主たる研究課題は、(1)後期ピグー貿易論の整理、および(2)貿易論におけるマーシャルからピグーへの直接的影響関係の有無の確認、であった。 (1)については、全体としてはおおむね達成したと言える。特に、主な研究対象となる『財政の研究』各版の収集、ピグーの主著である『厚生経済学』各版の収集、それらにおける貿易に関する議論の有無の確認、その内容の把握などは、それぞれ比較的順調に行われた。他方で、主要著作以外に含まれるかもしれない、貿易に関する種々の研究についての収集・整理については、次年度以降も継続して行う必要がある。 (2)についても、全体としておおむね達成したと言える。特に、平成28年度に行う予定であった『マーシャルと現代思想』の分析を、先行して進めることができた。 しかし、『ピグー全集』を含めた、上記以外の文献の収集・整理は完了していない。 それゆえに全体としては、現時点では、研究はおおむね順調に進展している、と結論付けられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題は、以下の2つの問題を再検討することである。 第一に、マーシャルがピグーに及ぼしたと考えられる間接的影響を分析する。具体的には、両者に共通する保護関税批判の根拠を考察する。すなわち、保護関税の適用範囲の意図しない拡大、当時先進国であった英国における幼稚産業保護の不必要性、英国の他国に対する影響力の低下に鑑みた関税転嫁の不可能性、などを考察する。 とりわけ、マーシャルの「国際貿易の財政政策に関する覚書」、『貨幣信用貿易』などの文献を分析対象として、貿易論におけるマーシャルとピグーの類似点・相違点を明らかにする。また、マーシャルの貿易論に関する先行研究は、ピグーのそれよりもかなり進んでいるので、収集および分析を慎重に行う。 第二に、ピグーに関する未だ収集しきれていない文献の収集を進め、さらにピグー貿易論の概要を明らかにすることを進める。これによって、20世紀初頭の貿易論と、『厚生経済学』以降の後期の貿易論との共通点・相違点を明らかにし、さらに貿易論の展開をより深く理解することができる。 その際には、貿易論と「厚生経済学」との関連を重視する。そのことによって、ピグーの経済学史上最大の貢献とされる「厚生経済学」が経済政策に、どのように応用されたのかがわかる。また、『財政の研究』において保護関税が租税収入論の一部として論じられていることに鑑みて、ピグーの財政論と保護関税論・貿易論との関連についても精査する。
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Causes of Carryover |
物品費に関して、収集を予定していた『ピグー全集』および『ピグー経済学論集』を入手できなかったことが、主な次年度使用額の原因である。 また、旅費に関して、当初は国立国会図書館での資料収集を予定していた。しかし、経済学史学会全国大会の旅費が予想以上にかかったために、平成27年度における国立国会図書館での資料収集は断念した。そのことが、次年度使用額の原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費に関して、平成28年度も継続して、『ピグー全集』および『ピグー経済学論集』の収集に努める。また、古書での入手も試みる。 また、旅費に関して、平成28年度の旅費と合算して残高に余裕が見込まれる場合には、平成27年度に実施できなかった国立国会図書館での資料収集を実施する。 その他に、①書籍、②デジタルカメラ、③旅費(学会)への支出を予定している。
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