2015 Fiscal Year Research-status Report
景気循環論の原風景としての戦後アメリカの経験に対する歴史的考察
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15K17033
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
高見 典和 一橋大学, 経済研究所, 講師 (60708494)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マクロ経済政策 / アメリカ近代史 / 物価 / 科学論 / 数理経済学の歴史 / 経済学方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,現在の景気循環理論の知的原風景を考察するため,20世紀半ばのアメリカでのマクロ政策論争を詳細に分析することを目的としている。この目的を遂行するため,平成27年度は,以下の3点について調査を行った。 第一に,1940年代後半アメリカのインフレ論争のサーベイを行った。1946年の中間選挙の価格統制論争に関する研究(Meg Jacobsなど)をはじめとする先行研究をふまえて,ポール・サムエルソンやミルトン・フリードマンなどがかかわった学術書や一般雑誌での論文を幅広く調査した。以上から,価格統制に関する政党的あるいはイデオロギー的対立という歴史的文脈が存在することを発見し,さらにこの点を推し進め自分の研究として昇華することを目指している。 第二に,20世紀半ばの数理経済学の動向(計量経済理論や一般均衡理論など)に関するサーベイを行い,計画中の著作のための草稿を書いた。上述の期間と同じ1940年代から50年代にかけては,数理経済学の重要な研究が次々と生み出された時期であった。具体的には,当時シカゴ大学にあったコウルズ委員会が,計量経済学や線形計画法などのようなテーマを設定したシンポジウムを組織し,それをもとに論文集を刊行していた。現在の経済学史分野では,この時期のコウルズ委員会の活動には大きな関心が向けられているため,計量経済理論の発展をより詳細に理解し,当時のマクロ政策論争に影響があったかどうかを論じることで,分野全体への私の研究のインパクトを高めることにつなげることができると期待している。 第三に,現代的な歴史方法論を取り入れるため,近年の経済学方法論や科学論(サイエンススタディーズ)の文献をサーベイし,そのうち一つの著作の翻訳に取りかかった。これによって,現実の出来事と学説の双方向の関係性を洗練された知的枠組みに基づいて議論することができるようになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の直接の関心であるアメリカのマクロ政策論争については,1940年代後半から50年代にかけての多様なマクロ的経済的現象,およびそれに関する当時の論争にかんする理解を深めることができたので,意味のある進捗があったと評価できる。たとえば,戦後直後の物価統制にかんする論争では,経済学者も盛んに発言したことや,1950年前後に労働組合の調査によって企業利潤が論争になったことは,論文として取り上げる価値が十分にあると思われる。 これとは別に,同時代の数理経済学の発展に関する考察や,近年の経済学方法論の動向に関するサーベイにおいては,原稿執筆や翻訳といった形で具体的な成果が上がったが,これらは,マクロ政策論争に関する研究の最終的な完成度を高めるために必要なことである。というのも,現在の経済学史では,計量経済学やゲーム理論などの20世紀半ばの数理経済学の発展に大きな関心が注がれており,また,科学を社会的文脈に位置づけることに努力が向けられているので,自分の研究をそのような動向に関連づけることができれば,研究のインパクトを高めることができるからである。 以上のように,20世紀半ばのアメリカでのマクロ経済政策論争に関して,内容の理解を深め,周辺的状況をサーベイし,洗練された研究上の視野を獲得することができたため,平成27年度の本研究の進捗状況は肯定的に評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
具体的に成果のあった数理経済学のサーベイおよび経済学方法論に関する翻訳を生かして,20世紀半ばのアメリカでのマクロ経済政策論争を新しい観点からとらえなおす。具体的には,1955年のローレンス・クラインとアーサー・ゴールドバーガーのマクロ計量モデルがどのような知的文脈のもとで,どのような意図にもとづいて生み出されたものかという問いは,重要な研究につながる可能性がある。このように,当初の計画よりもさらに広い視点で問題をとらえることを推進していく。
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Causes of Carryover |
学内の別の研究資金を利用して長期の在外研究を行ったため,当初計画していた海外への資料調査を行うことができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
在外研究期間には文献調査を優先して行い,当初予定していた資料調査は平成28年度に実施することとした。研究遂行上大きな問題は生じていない。
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Research Products
(2 results)