2016 Fiscal Year Research-status Report
景気循環論の原風景としての戦後アメリカの経験に対する歴史的考察
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15K17033
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
高見 典和 首都大学東京, 社会科学研究科, 准教授 (60708494)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 20世紀の経済学の歴史 / マクロ経済学の歴史 / 計量経済学の歴史 / 経済学方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は,20世紀後半の景気循環理論をより十分な観点から考察するために,20世紀半ばの計量経済学の歴史,および経済学方法論にかんして主として研究を行った。具体的な成果としては,この両方の論点を取り入れた,「20世紀前半の計量経済学の歴史:サーベイと計量書誌学的考察」という論文を完成させ,査読付き学術雑誌『経済研究』に受理された。20世紀後半のマクロ経済学の背後には,同時期のマクロ計量モデルの発展という重要の歴史的文脈があり,計量経済学の歴史は,本研究課題を進める上では欠かすことができないテーマだと判断した。 同論文では,既存の研究も参照しながら,20世紀初頭に静学的経済理論を批判するために初歩的な計量分析を用いたヘンリー・ムア,より体系的に数理統計学を導入し,組織面でも大きな貢献をしたラグナー・フリッシュ,1930年代に大規模なマクロ計量モデルを構築したヤン・ティンバーゲン,計量経済学に明確に確率論を導入したトリグベ・ハーベルモやコウルズ委員会の研究者について叙述した。さらに,計量書誌学的手法を用いて,20世紀後半において重要な計量経済学者を析出した。本論文ではこれらを通じて,経済学における理論と実証のあいだの緊張関係が,「モデル」という発想の普及によって無害化されたということを指摘するとともに,コウルズ委員会以降の計量経済学に関する研究の方向性も提案した。 経済学方法論に関する研究としては,英文の専門書の翻訳に携わっている。D. W. Hands 氏の Reflection without Rules であるが,同書は,過去2,30年の同分野の転換を詳細に論じた上級教科書であり,我が国にも,同分野の新しい展開に対する理解を広めるために非常に有効な著作であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文や研究報告として,一定の成果を上げていることを指摘できる。2015年には単著論文 "The Baffling New Inflation: How Cost-Push Inflation Theories Influenced Policy Debate in the Late-1950s United States" が,History of Political Economy 誌に掲載され,同研究を,経済学史学会全国大会(滋賀大学,2015年5月)で報告した。また,単著論文「20世紀前半の計量経済学の歴史:サーベイと計量書誌学的考察」が査読付き雑誌『経済研究』に受理され,近く刊行される予定である。 計量経済学の歴史や経済学方法論に関して現在進めている研究は,当初の計画とは文字どおりに同じではないが,この変更は,現在の学会の研究動向,これまでの予備的研究を反映した結果である。現在,欧米の学会では,例えば,History of Political Economy 誌の2016年の例年特集号で取り上げられたように,20世紀後半の実証的研究に強い関心が向けられている。20世紀半ばに計量経済学の手法が確立され,これが,どのように具体的な社会経済問題に応用されたかという問題に関心が寄せられているのである。本研究課題のマクロ経済分野に関しても,同時期の計量経済学の動向に大きな影響を受けているため,本研究課題の範囲内で,計量経済学の歴史に関する文献を生かした研究を行うことができると考えられる。また,これまで行った,カリフォルニア大学バークレー校やデューク大学での資料調査の結果,計量経済学の発展に貢献した経済学者の文書が豊富に存在していることがわかった。以上の点から,より重要な研究を生み出せるように上記の分野に従事している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,現在進めている研究を継続・発展させる。経済学方法論に関する研究では,D. W. Hands 氏の Reflection without Rules の翻訳企画に,主要翻訳者の一人として加わっているが,同翻訳の出版を完了させる。同翻訳に関しては,すでに出版社から企画了承を受けており,原稿も7割程度完成しているので,本年度中に刊行できる見込みは高い。同翻訳では,解説の執筆も行う予定である。 また,計量経済学の歴史との関連を意識した研究として,ジェイコブ・マーシャックやチャリング・クープマンスの文書(それぞれカリフォルニア大学ロサンゼルス校とイェール大学に所蔵されている)を調査することを計画している。かれらは,20世紀半ばに数理・計量経済学の発展に多大な貢献をしたコウルズ委員会を主導した経済学者であり,また,管見の限り,これらの文書は比較的,既存の研究で利用されていないので,新しい研究につながる可能性がある。実際に,各大学に滞在するか,あるいは,現地の研究者に依頼するか,どちらかの方法をとることが可能である。 さらに,夏に,20世紀のマクロ経済学の歴史を研究しているフランスの中堅研究者を招聘する計画がある。セミナーを開催し,同氏に研究発表を行ってもらい,意見交換したり, 研究連携の可能性を模索したりする予定である。同研究者とは,2017年3月に渡仏した際に面会しており,現在,招聘についてメールで調整中である。
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Causes of Carryover |
最も大きな要因は,2015年度に,当時所属していた一橋大学経済研究所の頭脳循環プログラムを利用して,在外研究を行ったため,計画どおりに本研究を遂行することができなかったことであり,2015年度からの繰越額が,主として,2016年度においても使用することができなかった部分に相当する。さらに別の理由として,2016年10月に,それまで勤務していた一橋大学経済研究所から首都大学東京都市教養学部に転任し,研究機関が変わり,新たな業務が発生する中で,本研究計画を遂行することが困難となった。また,2017年3月に帝京大学の科研費に基づいて,国際ワークショップに参加したことも,次年度使用額が生じた理由の一つである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たに研究者を海外から招聘し,国際セミナーを開くことを計画している。具体的には,フランス・リール第二大学のグールヴァン・リュバン教授を2017年7月に招聘し,同教授の専門分野である20世紀のマクロ経済学の歴史について研究報告をしてもらう予定である。また,資料調査のための海外出張を増やすことも検討している。現在のところ,カリフォルニア大学ロサンゼルス校所蔵のマーシャック文書とイェール大学所蔵のクープマンス文書を調査することを検討しており,どちらか一方ではなく,両方を調査することを計画している。
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Research Products
(3 results)