2015 Fiscal Year Research-status Report
新たな市民社会論構築に向けた基礎的研究:J. ロックの宗教思想と社会的徳の実践
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15K17034
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
武井 敬亮 京都大学, 経済学研究科(研究院), ジュニアリサーチャー (90751090)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ジョン・ロック / エドワード・スティリングフリート / MS Locke c.34 / 寛容 / 自由 / 国教会 / 信仰 / 聖書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、17世紀のCivil概念における社会的徳としての宗教性を、ロック及び同時代の思想家の著作を分析することによって析出し、それを啓蒙思想の文脈に位置づけ、イングランド啓蒙の特質を明らかにすることにある。 本年度は、ロックの内面と外面(政治と宗教)の関係性に関する議論をより明確に把握するため、1680年代前半のロックの草稿類を中心とした資料収集と分析作業を予定していた。また、この作業と並行して、ロックの論駁対象のひとりE. スティリングフリートの著作の分析を予定していた。 本年度は、具体的には、ロックの手稿MS Locke c.34とその中でロックが批判していたスティリングフリートの二つの著作(『分離の災い』(1680年)と『分離の不当性』(1681年))の分析を行った(MS Locke c.34に関しては、実際にオックスフォード大学のボドリアン図書館で手稿の現物を確認し、写しを入手した)。スティリングフリートは、両著作の中で、非国教徒の分離を批判し、国教会の「統一」の必要性を主張した。そして、その論拠として、新約聖書の「フィリピ人への手紙」3章6節(「ただ私たちは、自分たちが到達したところ、それを堅持すべきである。」)を中心に議論を展開した。これに対して、ロックは、同じ箇所から、相手の議論の矛盾を暴露するとともに、正反対の結論(キリスト教徒の信仰の自由と分離の正当化)を導き出す。この批判様式は、『統治二論』のフィルマー批判にも通ずるところがあり、ロックの議論の特徴の一つといえる。本研究成果については、「J. ロックの『聖書』解釈と E. スティリングフリート批判」として口頭発表し、博士論文及びそれを加筆・修正した著作(のひとつの章)として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ロックの手稿MS Locke c.34と論駁対象のスティリングフリートの著作の分析を予定していた。手稿の現物を実際に確認し、手稿自体の分析も予定通り行うことができた。ただし、スティリングフリートの著作のうち、『分離の不当性』(1681年)に関しては、『分離の災い』(1680年)から引き継がれている論点とロックが批判している箇所を中心に分析を行ったため、スティリングフリートのすべての議論を扱ったわけではない。スティリングフリート自身の教会・国家観をポジティブに描き出す作業は次年度に残された課題である。しかし、両者の比較から、ロックの議論の特徴を析出するという本年度の目的は、おおむね達成されたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ロックの著作のうち、『統治二論』(1689年)と『寛容書簡』(1689年)の再検討を行う予定であったが、本年度、聖書解釈をベースにしたロックの政治的議論の特徴を明らかにしていく中で、ロックの教義論や宗教的立場を把握する必要がでてきたため、次々年度に予定していた『キリスト教の合理性』(1695年)の分析を次年度に行い、この課題に応えたい。
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