2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K17035
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Research Institution | Ibaraki National College of Technology |
Principal Investigator |
井坂 友紀 茨城工業高等専門学校, 人文科学科, 准教授 (60583870)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 経済学史 / 植民論 / 植民地論 / 土地制度 / 自然権 / 自然法 / スクロウプ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の最も重要な成果は、ウェイクフィールドの組織的植民論に対するスクロウプの議論を整理できたことである。 1836年に設置された「植民地における土地処分に関する特別委員会」において、委員となったスクロウプは証人としてのウェイクフィールドと議論を交わすとともに、彼自身が証人となってウェイクフィールドの組織的植民論についての自論を展開した。そこでの組織的植民論に対する彼の批判は大きく次の3点に集約することができる。 第1は植民地における労働力不足の解消策についてである。ウェイクフィールドは移民がすぐに土地所有者に転化してしまうために労働力不足が生じるとして土地に「十分な価格 the sufficient price」を付与する政策を提唱した。これに対してスクロウプは、安価な土地はそれ自体として移民を引き寄せる要因となるだけでなく、その結果としての高賃金が移民流入をもたらすとして、ウェイクフィールドの政策を「誤謬の上に打ち立てられた」ものであると批判した。 第2は土地価格の設定に際して考慮すべき要因についてである。ウェイクフィールドのいう「十分な価格」はもっぱら労働力確保の観点からはじき出されるものであるが、スクロウプは適正な土地価格の設定のためには他の植民地における土地価格やいわゆる「スクワッティング」の防止、さらには政治的不安定の回避といった考慮すべき他の要因が存在する点を強調したのである。 そして最後の、最も重要な批判は、組織的植民論が前提とする農業モデルについてである。組織的植民政策の1つの狙いは植民地にイギリス型の大規模農業を確立させることにあったが、スクロウプはその必要性に疑問を呈した。彼は植民地における小規模自作農は大規模農業と同程度に生産的でありうるとし、労働者に50エーカー程度の土地を供与するといった案に賛同した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的はスクロウプの植民地論を彼の経済学体系全体との関わりにおいて明らかにすることであり、目的を達成する上での具体的課題は次の2点である。すなわち、第1は、スクロウプは植民地に関してまとまった検討を行っているわけではないことから、入手しうる著書・論文から植民地に関する議論を収集・整理し、彼の植民地論をいわば再構築することである。そして第2は、スクロウプの植民地に関する見解がどのような理論的背景から出てくるのかという点を明らかにするために、彼の経済学を可能な限り体系的に整理・検討し、その全体像を提示することである。 本研究については当初予定の2年から3年へと研究期間を延長することとなったが、その理由は以下に示す通り研究の停滞ではなくむしろ予想以上の進展によるものである。 第1に、本研究の全体像に関して、2016年5月に実施された経済学史学会第80会全国大会において学会発表を実施することができたということがある。本発表では本研究課題に関連する研究成果を残された先生に「討論者」を務めていただき貴重な助言や批判を頂戴するとともに、会場の先生方からも示唆に富むコメントを複数いただいた。これらは本研究のさらなる進展につながるものであった。 第2に、上記2つ目の具体的課題に関する論文を書き上げることができたということがある。上述の学会発表直後の2016年6月からスクロウプの経済学の体系的整理・検討に関する論文執筆を開始し、2017年2月に国内の査読付きジャーナルへの投稿を終えた。 そして第3に、上記1つ目の具体的課題に関して、現在論文を書き上げる途中段階まで進んでいるということがある。スクロウプの植民地論については世界的にみてもほとんど研究が進んでいない状況にあることから、この論文に関しては海外の査読付きジャーナルに投稿する予定で現在執筆を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的はスクロウプの植民地論を彼の経済学体系全体との関わりにおいて明らかにすることであり、目的を達成する上での具体的課題は(1)スクロウプの著書・論文から植民地に関する議論を収集・整理し、彼の植民地論をいわば再構築すること、そして(2)スクロウプの植民地に関する見解がどのような理論的背景から出てくるのかという点を明らかにするために、彼の経済学を可能な限り体系的に整理・検討し、その全体像を提示することの2点である。 今後の研究の推進方策は大きく3つに分類される。 まず上記(1)に関して、本年8月あたりまでに論文を完成させ、海外の査読付きジャーナルに投稿する。来年3月までに掲載可の段階まで進むのは困難かと思われるが、少なくとも指摘される加筆・修正箇所への資料面での対応の目処が期間内につけられればと考えている。 また上記(2)に関しては、上述の通り現在学会誌に投稿中であり、こちらは9月あたりまでには査読結果が判明するものと思われる。部分的加筆・修正で掲載可となり、かつその対応が比較的容易である場合には、研究期間内に掲載が確定することもありうると考えられる。 最後は、スクロウプの議会内での活動に関する資料の収集と読み込みの継続である。スクロウプの議員活動に関しては既に上記(1)、(2)の研究成果の中に盛り込んでいる部分もあるが、それ自体として独立した研究テーマとなりうることが判明した。国立国会図書館での資料収集を継続し、最終的には(研究期間後になる蓋然性が高いが)1本の論文にまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
本研究については期間延長を申請し承認いただいたところであるが、これは研究の遅延によるものではなく、むしろ研究の順調な進展を反映したものである。具体的には、本研究課題全体に関わる文献収集・検討を進める一方で、研究成果の一部について既に学会発表や論文の形にまとめる作業に入ることができたということである。次年度使用額が生じたのも既に入手した資料に基づく学会発表や論文執筆に時間を費やした結果である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の使用計画としては大きく2つの項目をあげることができる。第1はスクロウプの議会での活動に関する資料収集のための旅費である。これは昨年度までと同様、国立国会図書館で実施するものである。第2は海外ジャーナルへの論文投稿のための英文校正費である。現在スクロウプの植民論について英語で論文を執筆しているところであり、完成後すぐに専門の業者に校正を依頼し海外のジャーナルに投稿する考えである。
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Research Products
(1 results)