2016 Fiscal Year Annual Research Report
The behavioral theory for informal institutions: Experimental evidences from developing countries
Project/Area Number |
15K17045
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
後藤 潤 一橋大学, 経済研究所, 講師 (30732432)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 制度選択 / 社会規範 / フィールド実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はフィリピンにおいて、田植え労働契約を対象としたフィールド実験を行った。主要な研究目的は、固定賃金制と個人出来高制という経済的インセンティブの度合いが異なる二つの制度を労働者に提示した際に、どのような要因でどちらの制度が選択されるのか、その内生的な動態を明らかにすることである。計量分析の結果、個人出来高制の選択において二つの社会規範(不平等回避の規範:inequity aversion、および所得再分配の規範: kinship taxation)が、重要な決定要因となっていることがわかった。具体的には、相手よりも高い所得を得ることに罪意識を感じる労働者や、得られた所得を他者に再分配することが村落内部で規範として成立していると強く認識する労働者ほど、個人出来高制を避けることが判明した。したがって、この分析結果から村落におけるインフォーマルな制度の成立要件として、村落内部で生成される社会規範が重要な役割を担っていると推察される。これらに加えて、本研究では実験デザインを工夫することで、労働者間で長期にわたって繰り返し交流する確率を外生的に変化させ、それらの存在が社会規範の生成に寄与することを示した。社会規範の生成要因や、それが経済制度の成立に与える影響に関する研究は非常に限られているため、本研究の意義は大きい。 平成27年度および28年度での研究を通じて、本科研全体の問題意識である「インフォーマルな制度の内生的な動態と経路依存性の解明」について、(1)日本における共有資源管理のための制度と(2)フィリピンにおける労働契約、という視点から厳密な実証結果を提示した。研究成果として二本の論文をワーキングペーパーとしてまとめた。今後、国際学会で研究報告を行い、最終的には国際雑誌に投稿する予定である。
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