2015 Fiscal Year Research-status Report
ミクロデータを用いた産業集積とイノベーションの波及に関する生産性分析
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15K17062
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
山田 恵里 近畿大学, 社会学部, 講師 (30706742)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 全要素生産性 / 確率フロンティア分析 / 産業クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,『工業統計調査』の2004年から2012年における事業所個票データを用いて,全国の製造業事業所の生産性を計測し,生産性成長に寄与する要因を分析した。さらに,産業集積に伴うイノベーションに着目し,イノベーションに由来する生産性成長が高い事業所群の地理的な分布から産業クラスターの形成範囲を検出した。 分析では,生産性成長を確率フロンティア分析の手法により計測することができる全要素生産性(TFP)成長で捉え,住所データをもとにGISにより産業クラスターの分布範囲を可視化した。 分析結果より,自動車・同附属品製造業では,自動車製造業(最終組立部門)と自動車車体・附随車製造業(組付け部門)の事業所を中心として,イノベーションによるTFP成長が高い自動車部分品・附属品製造業の事業所が地理的に近接して立地していることが判明した。自動車部分品・附属品製造業のうち大規模事業所よりも,従業者数が200名以下の小規模事業所間の方が集積の程度が高く,かつ組立部門や組付け部門の事業所により近接していることが示された。つまり自動車製造業の産業クラスターは,大規模な最終工程を担う事業所の周囲に小規模な部品製造事業所が多数立地することによって形成され,イノベーションが生じていることが明らかとなった。また,関東地域よりも東海地域で検出された産業クラスターの方が事業所群の近接性が高いことが示された。研究成果は論文にまとめ,国内外の学会にて研究報告及び意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでTFPの計測にはソロー残差が用いられてきた。本研究では,ソロー残差の計測では仮定されない生産活動に非効率が存在するという前提の下でTFPを計測したことや,イノベーションによるTFP成長が生じている事業所群を産業クラスターとして可視化できた。単に事業所の立地から産業集積を検出するのではなく,潜在力の高い事業所が形成する産業クラスターを定量的に検出する新たな手法を提案する。 政策的な側面では,産業クラスターを視覚的に捉えながら,経済成長を促すために必要な産業クラスター政策をより具体的に提言することを可能にするという貢献を果たしている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に沿って進めるが,現在検出することができた自動車製造業に関する産業クラスターを中心に研究を深める。 イノベーションによるTFP成長が高い事業所群が地理的に近接にしていることは探索的な分析により判明しているため,今後は近接立地する事業所間における相互依存関係を考慮するモデルを構築,推定する。これにより,自動車製造業においてイノベーションやTFP成長に事業所間の交流がどの程度影響しているのかということを統計的に検証する。 事業所間の相互依存関係は住所データによる地理的な空間と産業連関表から計測する技術的な空間を用いることとする。産業細分類レベルで同業種だけではなく異業種間における連携を分析に導入することにより,実際に自動車製造業の成長にどのような産業が関わり合い,どのような産業間の経路を通じてイノベーションが生じているのか分析する。
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Causes of Carryover |
当初予定していた国際会議に参加できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
すでに整備されているデータを用いて,生産性分析を円滑に行うため計算処理能力の高い計算機の購入を優先する。
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