2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17073
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
高松 慶裕 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (90454016)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 最適所得税 / 就業選択 / 所得再分配政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,政府が就労可能な低所得者にどのように再分配すればよいのかという問題を理論的に検討することである。グローバル化の進展や非正規労働など雇用形態が多様化する中で,低所得者向けの政策を再考する必要がある。そこで本研究では,家計の労働供給行動として就業選択行動を採用した最適所得税モデルを構築し,誘因両立的な所得再分配政策を提示する。 平成27年度は,労働供給行動として就業の選択(extensive margin)を採用した最適所得税の静学的モデルと動学的モデルの両方について下記のように検討した。 1.静学的モデルにおいて負の参加税率と負の限界税率が正当化されるケースを確認した。具体的には,ある能力の就業家計に対する平均的な社会的限界厚生ウェイトが1よりも大きいならば参加税率は負となり,就労を条件とした賃金補助金または給付付き税額控除が望ましい。一方,負の参加税を実現するために負の限界税率を採用すべきかは仮定に依存して変化し,失業者と就業者の移転政策を不連続にジャンプさせることが望ましい場合もある。実際の制度設計ではパラメータがどのような値になるかに注意が必要なことを示した。これらの結果は「就業選択モデルに基づく最適所得税の展開」としてまとめ,『経済研究』20巻4号に掲載した。 2.動学的モデルにおいて労働生産性が2タイプで異質な労働選好を持つ家計に対して,労働選好にショックがある状況を想定した分析を行った。政府の政策手段として年齢に依存した所得税と年齢に独立な所得税を採用し,それらの定性的な参加税率のルールを導出するとともに,シミュレーション分析を行った。現在,海外雑誌への投稿に向けて論文としての取りまとめと改訂作業を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度に予定していた通り,家計の労働供給行動として就業選択行動を採用した最適所得税モデルを構築し,静学的モデルと動学的モデルの両方において賃金補助金・給付付き税額控除の妥当性について検証できた。各種パラメータを設定したうえでシミュレーション分析を行い,誘因両立的な労働所得税・再分配政策を理論的に検討することができた。また,国際財政学会へ参加し,最適課税の研究動向について知見を得ることができた。一方で,動学的モデルのシミュレーションにおいて,労働生産性を複数化することはできたが,確率的変化を導入することはできなかった。また数値計算プログラムの構築に想定外の時間がかかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,平成27年度に実施した労働所得税の下での誘因両立的な制度設計の研究を引き続き行う。特に動学的モデルにおいて平成27年度までに得られたシミュレーション結果を精査し,論文として取りまとめるとともに研究会等で報告する。 また,労働需要側の事情を考慮するために,労働生産性に影響を与える人的資本投資を考慮したモデルや失業者の中に非自発的失業者が存在するモデルについても考察する。
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Causes of Carryover |
平成27年度に実施した動学的環境下での誘因両立的な再分配政策のシミュレーション分析では,数値計算が難航したため,論文としての取りまとめが当初の予定より遅れた。このため,論文の英文校正等の費用がかからなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度において,上記のシミュレーション分析を論文として取りまとめる際の英文校正の費用として使用する予定である。
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