2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K17080
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
梶谷 真也 明星大学, 経済学部, 准教授 (60510807)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 時間配分 / 労働時間 / 余暇時間 / 賃金 / 健康 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は,『日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)』のマイクロデータを用いて,賃金率(時間当たり賃金)が睡眠時間に与える影響を計量分析した.標準的な労働供給モデルでは,個人が消費と余暇から効用を得ると考え,利用可能な時間のうち労働に費やす時間以外をすべて「余暇」として扱う.すべての人々は睡眠にこの「余暇」の多くを費やしているが,多くの経済学の分析では「睡眠の必要性は生物学的に決まる」という立場から睡眠時間を外生変数と仮定することが多かった.
睡眠が生産性を高めるという立場からアメリカのタイムユースサーベイのデータを用いて睡眠の需要関数を推定したBiddle氏とHamermesh氏の研究では,賃金率の高さが睡眠時間の減少と関係していることが指摘される.個人の賃金率は個人の労働の限界生産性を反映したものとして捉えれば,Biddle氏とHamermesh氏の指摘は,プラスの所得効果と睡眠が生産性に与えるプラスの効果をマイナスの代替効果が上回っている結果として解釈できる.
このように,睡眠時間と賃金率(生産性)との関係を議論するには,睡眠時間が賃金率に与える影響と賃金率が睡眠時間に与える影響とを分けて考える必要がある.そこで,本分析では,睡眠時間が賃金率に与える影響を考慮するために操作変数を用いた固定効果モデルを使って推定した.まだ暫定的な結果であるが,少なくとも男性労働者では睡眠時間の増加が賃金率を上昇させていることが示された.そして,就業者が多く占める60歳未満の男性において,賃金率が1%上昇すると1日の平均睡眠時間は0.2時間減少することが確認された.一方で,60歳未満の女性においても,わずかながら賃金率は睡眠時間にマイナスの影響をもたらすことが統計的に有意に確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)』のマイクロデータを用いて計量的に分析した「賃金(生産性)と睡眠時間との関係」についての研究内容を東北大学で開催された家族経済学研究会で報告し,討論者をはじめフロアから多くのコメントをいただいた.現在,研究論文の改訂を行っており,平成29年6月に開催される日本経済学会で報告する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
「賃金(生産性)と睡眠時間との関係」についての研究論文の改訂を進めて,国内(外)の学術雑誌に投稿する予定である.また,余暇時間のうち積極的に活動する時間として睡眠とスポーツ行動に注目し,これらの時間量が個人の健康資本に与える影響を実証的に分析するために,統計法33条第2号による『社会生活基本調査』の利用申請によって調査票情報を入手する.
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Causes of Carryover |
一昨年の在外研究において,現地にて物品を購入できなかったり,学会への出席を見合わせざるを得なかったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の物品費や旅費に充当する.
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