2015 Fiscal Year Research-status Report
非正規雇用の利用に関する企業の意思決定と雇用政策:均衡サーチモデルに基づく考察
Project/Area Number |
15K17081
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
増井 淳 創価大学, 経済学部, 准教授 (50409778)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 非正規雇用の利用目的 / 正規雇用者による努力選択 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、労働市場における取引摩擦の存在を考慮した均衡サーチモデルに基づき、企業による非正規雇用の利用目的の選択、及び企業による非正規雇用の生産性向上に繋がる意思決定を分析することである。この目的に即して、本研究では、以下の3つの研究課題に取り組む計画となっている:(研究課題A)非正規雇用に関する企業の利用目的、(研究課題B)非正規及び正規雇用者の努力選択、(研究課題C)非正規雇用者に対する訓練の提供。 (研究課題A)では、非正規雇用の利用に際し、企業が「柔軟な雇用調整」と「労働者の振るい分け」という2つの目的を、それぞれどのような状況において選択するかを考察している。欧州諸国と比べ、日本では非正規形態から正規形態への移行率が著しく低いことが知られており、この状況を改善するために、企業が後者の目的で非正規雇用を利用するのはどのような状況かに注目した。その結果、正規雇用に対する雇用保護が弱く、また失業者に対する補償が非寛容的であるほど、振るい分け目的で非正規雇用が利用されることが示された。 (研究課題B)では、正規及び非正規の各形態で働く労働者が存在する時に、解雇費用や雇用形態間の移行を促す制度が労働者の努力選択に及ぼす影響を分析している。この研究課題における非正規雇用として試用期間中の労働者を想定し、また分析を簡略するためにこの労働者は常に高い努力水準を提供すると仮定している。この時、解雇費用に占める退職金の割合の上昇は、雇用創出を増やし失業を減らす一方で、正規雇用者の労働インセンティブを削ぐことが示された。 なお(研究課題C)には、これから本格的に取り組む予定となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(研究課題 A)一通りの分析を終えて論文を書き上げており、今後行う研究報告の場でいただくコメントを基に論文を改訂していく段階にある。研究報告を行う時期・場所も既に確定している。 (研究課題 B)一通りの分析を終えて論文を書き上げており、既に行った研究報告を通じていただいたコメントを基に、論文を改訂する段階にある。 (研究課題 C) 現在は必要な文献を収集し、それらに目を通し始めている段階である。そのため、まだ論文執筆には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
(研究課題A)現段階では、非正規雇用の利用に関する「柔軟な雇用調整」と「労働者の振るい分け」という目的が、それぞれ企業により選択されるための条件を理論的に特定している。今後の見通しとして、日本の労働市場を分析した研究で示されているカリブレーションの結果から、日本企業は上記の2つの利用目的のうち、どちらを選ぶ傾向にあるのかを定量的に明らかにしていきたい。 (研究課題B)既に行った研究報告において、(i) 論文のメインの主張が曖昧である点、及び (ii) 試用期間中の労働者も正規雇用者と同様に努力水準の選択を行う状況の方が興味深い点、についての指摘をいただいた。前者に関しては、目的意識や得られた結果について、先行研究と本研究課題との間にどのような違いが見られるかをより明確する必要がある。後者に関しては、現状の理論構造の下で試用期間中の労働者の努力選択を取り入れることが難しいため、設定の簡略化が必要となる。今後の方向性としては、雇用関係を結ぶ前に確率的に労使の相性が判明する現在の設定から、相性を外生とする形に変更することが考えられる。 (研究課題C)上述の2つの研究課題とは異なるモデルを使用することを想定している。1つの候補として、労働市場が複数の部分市場から構成され、それらの間で労働者が行き先を自由に選択できるディレクテッド・サーチの構造が挙げられる。先行研究の中に、このモデルを用いて、複数の雇用形態と企業が提供する職業訓練を取り入れたものが存在するが、そこでは訓練の質的違い(一般訓練もしくは企業特殊訓練)が考慮されていない。本研究課題では、提供される訓練の質に焦点を当て、各雇用形態に提供される訓練が企業によりどのように選択され、その結果が実現する均衡の性質にどのような影響を与えるかを分析する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額がプラスになった大きな理由は、旅費の支払いが大幅に少なくて済んだことによる。その理由は下記の通りである。第1に、学会申し込みの審査で reject されたため、モントリオールへの出張(The European Association of Labour Economists)がなくなった。第2に、労働経済学コンファレンスの開催地が、当初想定していた大阪ではなく東京で行われ、旅費が大幅に安くなった。第3に、シンガポールへの渡航費が安く済んだ。第4に、大学から国際学会で報告する際の費用を一部負担していただいた。その他には、(i) 書籍を注文したものの、時期が年度末であったため今回の収支状況に計上されていないこと、及び (ii) こちらの手違いで論文校正費を大学の研究費から支出してしまったこと、が理由として挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度不参加となった The European Association of Labour Economists の代わりに、本年8月に京都で行われる国際学会 Asian Meeting of the Econometric Society での報告が決まっているため、そちらで使用させていただく予定である。
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