2016 Fiscal Year Research-status Report
非正規雇用の利用に関する企業の意思決定と雇用政策:均衡サーチモデルに基づく考察
Project/Area Number |
15K17081
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
増井 淳 創価大学, 経済学部, 准教授 (50409778)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 非正規雇用の利用目的 / 労働生産性の向上 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、以下の3点の研究課題を設定していた:(A)非正規雇用に関する企業の利用目的、(B)非正規及び正規雇用者の努力選択、(C)非正規雇用に対する訓練の提供。 研究課題(A)では、企業が「柔軟な雇用調整」と「労働者の振るい分け」という2つの目的を、どのような労働市場環境の下で採用するのかを理論的に考察した。ここでは、失業者への補償が手厚過ぎず、また正規雇用に対する雇用保護が弱い場合ほど、非正規雇用が振るい分け目的で使用されやすいことが示された。 研究課題(B)では、異なる雇用形態(試用契約と正規契約)で働く労働者の努力水準を企業が観察できない状況に注目し、雇用保護の度合いの変化が定常均衡における失業率や正規雇用者の平均生産性に及ぼす影響を調べた。ここでは、退職金として企業に課された解雇費用が増えるほど、均衡失業率が低下する一方で、正規雇用の労働生産性が低下することが示された。これは、解雇費用の増加が試用契約の形で雇用される労働者の採用基準を引き下げ、正規形態に移行するジョブ・マッチの質が平均的に下がることによる。この事実は、政策担当者が失業率と労働生産性の間でトレード・オフに直面することを示唆している。 研究課題(C)では、非正規雇用者が十分な訓練を受けていないという指摘に注目する。企業が非正規雇用者に訓練を施さないことは合理的な選択なのか否か。また、どのような労働市場環境下であれば企業は訓練を提供する動機を持つのかを、適切な補助金の支給と合わせて考察する。こちらは、現在進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在まで研究進捗状況が遅れている理由として下記の理由が挙げられる。 (1) 2016年2月に第二子が誕生し、現在4歳の長男と合わせ、育児に時間が取られることが多くなった(どちらの両親も自宅から近い距離に居住しておらず、育児に関して頼ることが難しい)。 (2) 上述の研究課題(A)の成果を、2016年の9月にベルギーで行われるヨーロッパ労働経済学会にエントリーし報告する予定であったが、テロ発生を受けてエントリーを回避した。そのため、論文改訂の機会が先延ばしになり、研究の進捗が遅れることになった(本年9月にスイスで行われる学会で報告予定である)。 (3) 研究課題(B)の成果である論文を海外の学術雑誌に投稿した際に、レフェリーから多くの有益なコメントをいただいた。それらのコメントに基づいて分析をやり直したため、予定以上に時間がかかることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題(A)については、9月にスイスで行われるヨーロッパ労働経済学会において報告し、そこで得られたコメントに基づいて論文を改訂・海外の学術雑誌への投稿を行う予定である。 研究課題(B)については、海外の学術雑誌へ投稿中である。 研究課題(C)については、現在進行中である。具体的には、異なる雇用形態が存在する状況下での訓練提供のあり方を理論的に考察する上で必要な関連研究の収集・整理を行っている。
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Causes of Carryover |
2016年9月に参加予定であったヨーロッパ労働経済学会へのエントリーを取りやめたため(欧州で起きたテロの影響で)、その分の海外旅費分に余剰が生じた。代替の国際学会として、同年8月に Asian Meeting of the Econometric Society で報告をしたが、たまたま開催国が日本であったため、旅費の使用が限られてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年9月に参加予定であったヨーロッパ労働経済学会の代わりに、2017年9月に行われる同学会にて報告することが決まったため、そちらでの旅費に充てさせていただく予定である。
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