2017 Fiscal Year Research-status Report
新生児の健康が教育成果・健康資本に与える影響の実証研究と政策評価
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15K17082
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Research Institution | Osaka University of Commerce |
Principal Investigator |
松島 みどり 大阪商業大学, 公共学部, 講師 (20634520)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 新生児の健康 / 教育成果 / 健康資本 / 医療政策 / 妊婦健康診査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、主に日本の大規模政府統計を用いて出生時の健康状態が教育成果や健康資本に与える影響を明らかにし、さらに妊産婦や乳幼児への医療補助政策が新生児の健康とその後の成長に与える効果を測定することである。平成29年度までに、医療補助政策が新生児に与える影響を分析しており、分析結果からは妊婦健康診断の補助金が新生児の健康状態を良くする可能性が示唆された。 また、出生時の健康状態が教育成果や健康資本に与える影響について、まず、大規模統計を用いて、①出生時の健康状態が成長過程にどう影響するか、を分析した。次に、データ数は少ないが、高齢者のデータを用いて ②ライフコースを通して出生時の健康状態はどのように影響するか、を検証した。①については、健康資本への悪影響は少しずつ緩和されていく可能性が見えてきている。一方で、小さく生まれた場合に、中学生時点での自己肯定感や主観的な自分の学力への評価が低くなる可能性も示唆されており、そのメカニズムについては現在研究を進めているところである。②については、出生時の不健康が10歳時点では健康状態、教育成果にネガティブな影響を与えている可能性が高く、また、教育歴や就労に関してもその負の影響が確認された。なお、負の影響が弱くなるのは高齢期に達した後であることも明らかとなった。 これらの研究は、妊婦に対する補助政策が、新生児の健康、そして長期的に人々の厚生に寄与する可能性があることを示しており、国内外に向けて発信することで、国際社会の妊娠期の政府介入について議論が深まることが期待できる。なお、出生時の不健康のネガティブな影響が高齢期に薄れる要因について今後解明していくことで、出生時の健康状態が悪かった場合に、どのような政策介入が行われればその不利益を緩和することができるのかという議論も可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は当初予定していた『21世紀出生児縦断調査』のみではなく、新しいデータセットを用いて、出生時の健康状態が人の一生にどのような影響を与えているのかを研究することができたため、出生時の健康状態が教育成果や健康資本に与える影響についての考察を深めることができ、おおむね順調に進捗しているといえる。しかし、平成29年度の目標としていた大阪府の調査データを用いた分析がまだ行えていないため、その点については、平成30年度に取り組みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、より「政策」の効果に焦点を当てた研究と、なぜ出生時に不健康で生まれたことが、主観的な学力の評価を低下させるのか、または実際の学力を低下させているのかについての分析の2つを中心に行っていきたい。 政策については、マイクロデータと市町村の政策のデータをマージして使用し、政策が人の健康行動や、健康状態にどのような影響を与えているのかを確認し、新生児の健康状態の悪影響がより早い段階で緩和されるためには、どのような政策が必要であるのかを議論するための資料となる研究成果を残したいと思っている。 出生時の健康と学力については、海外の先行研究では、出生時の不健康は客観的に測定された学力を低下させると言われている。日本においては、学力の客観指標が入手困難であり、その関係は検証されていない。今までの申請者の研究で、出生時の健康が主観的な学力の評価を低下させることが分かってきたが、客観指標においても同様の結果が確認できるのか、それとも主観的な評価においてのみこのような傾向が確認できるのかは、今後検証の必要があると考えている。なお、客観指標については、前述のとおり入手困難であり、マイクロデータを用いての研究は非常に難しい。よって、市町村の学力調査などを用いて市町村レベルでの研究を想定している。市町村レベルでの研究では、メカニズムの解明が難しく、また、転居など様々な問題が発生するため、計量モデルを工夫することで対処をする。 なお、これらの研究は国際学会で報告し、国内外に研究成果を広めることで政策議論で必要となる資料を提供したいと考えている。また、論文についても1、2年の間に学術誌に掲載をすることを目標としている。
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Causes of Carryover |
人件費や謝金の支払いが発生しなかったため残額が発生した。なお、人件費や謝金で行おうと予定していたデータ入力については、申請者本人でおこなった。 平成30年度は、研究成果の公表のために、国際学会での報告と学術論文誌への論文投稿を行うため、平成29年度からの繰越金は成果報告のための学会参加にかかる費用と英文校正費用等に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)