2015 Fiscal Year Research-status Report
非正規分布を中心とする漸近展開法による近似に関する研究
Project/Area Number |
15K17087
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
竹原 浩太 筑波大学, システム情報系, 助教 (70611747)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 漸近展開法 / オプション価格評価 / 金融数値解法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではファイナンス実務に於いて主にデリバティブの価格付けに対して高い評価を得ている「漸近展開法」について,その利用可能性を高めることを目的としている. 「漸近展開法」はその長所のひとつとして「適用可能なモデルの範囲が広いこと」が挙げられ,従来の研究においては(理論的な適用可能性の拡大ではなく)適用した際の精度の向上,中でも展開の次数を上げることによる精度改善が中心となっていた.一方,実務で重要なモデルの中には変数が多く,次数を上げることによって近似のための計算量が膨大に増えてしまうものもあり,そうした場合従来の正規分布を中心とした近似の場合に精度改善が実用上困難になってしまうという問題点も認識されてきた. そのため,本研究ではこの分布近似の中心に着目し,従来ほぼ正規分布に限られてきたこの中心を,密度や分布が既知であるより一般の分布へと拡張することを目標に据えた.こうすることで,より実際のモデルに「近い」(ただしその分布関数等が既知の)モデルを中心に近似することができ,低次の近似でも精度が改善し計算量を削減することができる,という効果が期待される. 中でも今年度は特に,(理論的な正当性を与えることよりも)実際の計算可能性に着目し,一定の条件下でそれほど強いモデルの特定化を行わずに,上記のような新しい近似を行うアルゴリズムを確立した.その際,既存研究のように中心となる分布の候補を特定してしまうことなく,かなり広い範囲の分布を中心に据えることが可能な計算手法を構築したことの重要性は,実務への応用という観点からも強調しておきたい.またこの手法の有用性を示すいくつかの数値実験も行い,学会等で発表することができた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画段階では,今年度の目標として「漸近展開法のkeyとなるある種の条件付き期待値の計算」において,Fourier級数展開の係数計算に帰着させて計算するアルゴリズムを作成すること,を挙げていた. この点については,一定の条件はあるものの,実務的にも重要なケースを含むかなり一般的な枠組みにおいて,当初考えていた方向でのアルゴリズム構築を行えたこと,またそのアルゴリズムを応用し実際に精度改善が達成されることを数値実験を通して検証したことなどを考えれば,概ね順調であったといえよう. 一方,同じく目標に挙げていた「常微分方程式の近似手法との関連」等の調査については,まだ十分とは言えず平成28年度も継続して進めていきたいと考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでの計画通り,前年度得られたアルゴリズムについて,i)その計算手法の理論的正当性・妥当性,及びii)近似精度のオーダー評価等を通して,より厳密に理論を構築していくことを目標としたい.「漸近展開法」の優れている部分は,実務的な応用のしやすさだけでなく,その背景となる理論がきちんと構築されていることでもある.この部分については,「漸近展開法」に関する既存研究に加えて,Fourier級数展開に関する知見・研究等も大いに参考になると考えられる. それと並行して,前項でも挙げた「常微分方程式の近似手法」等の調査を通して計算効率や精度を更に改善すること,および「漸近展開法」に関する既存研究・手法との精度比較等も検討していく予定である. これらに加え,今年度は本研究の最終年度であるため,昨年度以上に論文投稿や学会発表等を通した成果の発表にも努めていきたいと考えている.
|
Causes of Carryover |
学会発表回数が予定より少なかったこと,および計算負荷の高い数値例については今年度は分析対象としなかったため,予定より執行額が少なくなり次年度使用額が生じることとなった.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画の部分でも述べたとおり,今年度はより積極的に学会発表などを行い成果の発信に努めていくこと,および数値実験でもより計算負荷の高い例を取り上げていくことが考えられるため,そのために必要な設備の購入等での使用を計画している.
|