2015 Fiscal Year Research-status Report
中小企業の情報通信技術利活用の水準向上を支援する評価システムについての実証研究
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15K17115
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Research Institution | Ishinomaki Senshu University |
Principal Investigator |
工藤 周平 石巻専修大学, 経営学部, 准教授 (60549153)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ICT利活用 / 中小企業 / 評価指標 / 評価システム / 実証分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
中小企業の情報通信技術利活用(ICT:Information and Communication Technology)の評価システムを開発することを目的に、中小企業のICT利活用の水準を決定する要因を特定し、それらを評価指標として用いることの妥当性の検証を行った。さらに収集したデータの統計的な解析を行い、水準の評価方法を検討した。2012年9月中旬から10月下旬の期間で実施した秋田県の企業を対象としたICT利活用に関するアンケート調査で収集した342社のデータを分析し、中小企業のICT利活用を人的側面から評価するための評価指標を特定した。分析の結果、「トップリーダーシップ」、「ICT基盤構築」、「ICTリスク管理」、「外部委託」、「コミュニケーション」の5つを得た。Cronbachのアルファ係数と指標間の相関係数を算出し、5つの指標を採用することの信頼性と妥当性を検証した。中小企業のICT利活用の水準の評価方法を検討するために、5つの指標を用いて秋田県の中小企業の人的側面のICT利活用水準を評価した。5つの評価指標に含まれる項目の平均値によって各評価指標の得点を算出し、さらにそれらの平均値によって人的側面のICT利活用水準の得点を算出した。1(得点1.0-1.5)、2-(1.5-2.0)、2+(2.0-2.5)、3-(2.5-3.0)、3+(3.0-3.5)、4-(3.5-4.0)、4+(4.0-4.5)、5(4.5-5.0)という8段階尺度を用い、人的側面のICT利活用水準を評価した。5つの評価指標の中では、トップリーダーシップの得点が最も高く、IT基盤構築や外部委託の得点は低い傾向がみられた。秋田県内中小企業の人的側面のICT利活用水準の得点は2.74であり、3-と評価された。中小企業のICT利活用水準を評価するための妥当性の高い評価指標が特定され、また水準を評価するための1つの評価方法が示されたことで、中小企業は自社のICT利活用の現状と解決すべき課題について理解を深めることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終的な目標は、中小企業のICT利活用の水準向上を促進するための評価システムを開発し、それを用いて中小企業のICT活用の重要課題の特定や有効なICT活用方法を提案することである。本研究では、ICT利活用の内容的側面と人的側面の両方の水準の評価を行い、それを総合化することで中小企業のICT利活用水準の全体的な評価を行う。平成27年度は、そのための枠組み構築を行った。内容的側面については先行研究の調査を行い、Henderson and Venkatraman(1993)の戦略的整合モデルの枠組みに依拠して、「戦略的統合」、「基盤統合」、「オペレーション統合」の3つの評価指標を特定するとともに、人的側面については、平成24、25年度のアンケート調査で収集した秋田県内の中小企業342社のデータを分析し、「トップリーダーシップ」、「ICT基盤構築」、「ICTリスク管理」、「外部委託」、「コミュニケーション」という中小企業の人的側面のICT利活用水準を評価するための妥当性の高い評価指標を特定することができた。また評価方法についても検討を行った。単純に平均値や合計値を用いて評価を行う方法と主成分分析をはじめとする統計的手法を用いて得点を算出し評価を行う方法の2通りの方法について、秋田県の企業のデータを用いて予備的な評価を行い、その妥当性を検討した。平成27年度の研究成果によって、中小企業のICT利活用を評価するための評価システムが開発され、最終目標を実現するための基礎的な枠組みを構築することができた。開発した評価システムを用いることで、中小企業のICT利活用の水準を評価することが可能となり、その現状や課題をより深く理解することができる。また、企業規模別、産業別、地域別の水準を差異を分析することで、中小企業の特徴に応じた有効なICT活用方法を導出することができる。研究目的の達成に向けて当初の計画通りに研究が進んでおり、おおむね順調であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に開発した評価システムに基づいて調査票を作成し、東北地方の中小企業を対象にアンケート調査を行う。調査時期は平成28年7~9月を計画している。それにより中小企業のICT利活用を評価するとともに、開発した評価システムの妥当性を検証する。営利目的で事業活動を行っている中小企業2400社を抽出し、300~400社からデータを収集することを目的に調査を行う。中小企業の全体的なICT利活用水準を明らかにするとともに現状を把握し課題を抽出する。分析手法として、因子分析や主成分分析といった統計的解析手法を用いる。本研究では、内容的側面と人的側面のICT活用水準の因果関係の分析を行う。ICT利活用の人的側面とはICT活用を実行する組織要因に関する指標であり、よって、人的側面の水準が内容的側面の水準に影響を及ぼすという仮説を構築し、その検証を行う。この因果関係が明らかになることによって、内容面で事業とITの統合度合いを高めるために中小企業が解決しなければならない課題を明らかにすることができる。収集したデータを用いて、企業規模別、産業別、地域別のICT利活用水準を差異を分析する。これらの差異を明らかにすることによって、より妥当性の高い評価システムの検討が可能になる。企業や産業、地域の特性がICT活用に及ぼす影響を分析し、内容的側面や人的側面のICT利活用に影響を及ぼす要因を特定する。データ分析の結果に基づいてインタビュー調査を行い、評価システムの妥当性の検証、中小企業におけるICT利活用の水準に影響を及ぼす要因の特定を行う。調査時期は平成28年11月~平成29年2月を計画している。平成29年度では、平成28年度の研究成果に基づいて中小企業のICT利活用を評価するための枠組みを再構築し、その評価システムに基づいたアンケート調査およびインタビュー調査を実施する計画である。
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Causes of Carryover |
平成27年度は中小企業のICT利活用の水準向上を促進するための評価システムの枠組み構築に焦点を当てて、先行研究の調査、これまで収集した中小企業のICT活用のデータ分析を中心に研究を実施した。評価のための理論的な枠組み構築に重点をおいたため、次年度使用額が生じた。次年度は実地調査に重点をおいて研究を遂行する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、平成27年度に構築した評価システムに基づいてアンケート調査およびインタビュー調査を実施する計画であり、実地調査のための費用および研究成果の発表のために研究費を使用する。企業情報の購入、調査票の作成と送付のための費用が必要となる。送付のための郵送料金、返信については料金受取人払いにする計画である。平成28年度は、インタビュー調査も実施する計画である。そのための交通費が必要となる。研究の成果は国内外の学会、また、論文としてまとめて積極的に発表する計画であり、そのための費用が必要となる。また学会参加費、論文別刷費用、製本代金に次年度は研究費を使用する。
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