2016 Fiscal Year Research-status Report
中小企業の情報通信技術利活用の水準向上を支援する評価システムについての実証研究
Project/Area Number |
15K17115
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Research Institution | Ishinomaki Senshu University |
Principal Investigator |
工藤 周平 石巻専修大学, 経営学部, 准教授 (60549153)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 情報通信技術 / 中小企業 / 利活用 / 評価システム / 促進要因 |
Outline of Annual Research Achievements |
中小企業の情報通信技術利活用(ICT:Information and Communication Technology)の評価システムを開発することを目的に、ICT利活用の促進要因とICT活用水準との関係性の分析を行った。ICT利活用の促進要因として、経営環境、ICT戦略、トップリーダーシップ、ICTオペレーション、ICT資源、情報システムの6つを構成概念として用いた。また、ICT活用水準を測定するために、基幹系システム、生産・流通管理システム、設計・製造管理システム、情報系システム、顧客関係管理システムの5つの情報システムについて、システムの適用範囲の観点から4段階で活用水準を測定した。2013年8月中旬から2013年9月初旬の期間で実施した秋田県の企業を対象としたICT利活用に関するアンケート調査で収集した303社のデータを分析した結果、日本の中小企業のICT構築に影響を及ぼす要因として、トップリーダーシップ、ICT戦略、情報システムの3つが得られた。またICTの他の組織との接続に関しては、基幹系システムではICT戦略が、情報系システムではトップリーダーシップが、顧客関係管理システムでは、ICT資源が重要要因となるという結果を得た。さらに、中小企業のICT利活用を評価するための枠組みについての検討も行った。ICT利活用を促進する組織的プロセス要因である「トップリーダーシップ」、「ICT基盤構築」、「ICTリスク管理」、「外部委託」、「コミュニケーション」を取り上げるとともにバランス・スコアカードの枠組みを導入し、顧客、業務プロセス、学習と成長、財務の各領域における5つのプロセスの水準を評価する枠組みについて考察を行った。中小企業のICT利活用水準を評価するための指標に対して理解が深まり、より妥当性の高い評価システムを構築することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終的な目標は、中小企業のICT利活用の水準向上を促進するための評価システムを開発し、それを用いて中小企業のICT活用の重要課題の特定や有効なICT活用方法を提案することである。中小企業のICT利活用を評価するための必要十分な評価指標を特定するために、先行研究を精査するとともにICT活用に関する実際のデータを分析した。中小企業のICT利活用では、戦略面と組織面の2つの次元から評価を行うことが妥当であることを特定した。ICT利活用の戦略面の評価では、バランス・スコアカードの枠組みに依拠して、顧客、業務プロセス、学習と成長、財務の4つの評価指標を、組織面ではトップリーダーシップ、ICT基盤構築、ICTリスク管理、外部委託、コミュニケーションの5つの評価指標を用いてICT利活用の水準を評価するという評価システムを構築した。中小企業のICT利活用の水準向上を促進するための妥当性の高い評価システムを構築できたと評価できる。ICT利活用の戦略面では、各評価指標に対してICT活用の範囲の側面から測定項目を配置しその現状を6段階で測定する方法が、また組織面では、各評価指標に関する測定項目を配置し、その現状を6段階で測定する方法を採用する。測定で得られたデータを用いて、主成分分析をはじめとする統計的手法を用いて得点を算出し中小企業のICT利活用の水準を評価する。平成28年度の研究成果によって、中小企業のICT利活用を評価するための必要十分な評価指標が特定され、より妥当性の高いICT利活用評価システムを構築することができた。開発した評価システムを用いて中小企業のICT利活用の水準を評価することで、その現状や課題をより深く理解することができ、中小企業の特徴に応じた有効なICT活用方法を導出することができる。研究目的の達成に向けておおむね順調に研究が進んでいると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
開発した評価システムに基づいて作成した調査票を用い、東北地方(青森県、岩手県、秋田県、宮城県、福島県、山形県)の企業を対象にアンケート調査を行う。調査対象として、製造業1200社、卸売・小売業1200社を取り上げる。それぞれ、各県売上上位200社を抽出する。平成29年6月下旬までにデータを収集する。収集したデータを分析し、開発した評価システムの妥当性を検証するとともに中小企業のICT利活用の現状を評価する。平成29年7月下旬までにデータの解析作業を行う。ICT利活用の戦略面と組織面の水準と特徴を明らかにし、現状と課題を抽出する。さらに本研究では、戦略的次元と組織的次元のICT活用水準の因果関係の分析を行う。アンケート調査で作成した調査票を用いて、インタビュー調査を実施する。調査時期は平成29年7月から8月を予定している。インタビュー調査では、ICT利活用の戦略面や組織面について、より詳細に現状を理解することを目的とする。営利目的で事業活動を行っている中小企業2400社のデータベースをすでに構築しているが、300~400社からデータを収集し、調査対象企業のデータベースと結合する。構築したデータベースに基づいて、企業規模別、産業別、地域別のICT利活用水準の差異を分析する。ICT利活用に関する様々な企業間の差異について詳細に分析するために、インタビュー調査を行う。調査時期は平成29年9月から11月を計画している。アンケート調査とインタビュー調査の両方を実施し、中小企業のICT利活用の水準向上に影響を及ぼす要因について包括的に検討し、重要要因を特定する。これら重要要因に基づいて、中小企業のICT利活用の水準向上を促進するための有効な方法を提案する。平成29年度の研究成果によって、中小企業に適したICT利活用評価システムと利活用促進のための方策を示すことができる。
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Causes of Carryover |
平成28年度は中小企業のICT利活用を評価するための必要十分な評価指標の特定と中小企業に適したICT利活用評価システムの開発に重点をおいて研究を実施し、本格的な実地調査は次年度に集中的に実施することとした。そのため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実地調査のための費用および収集したデータの解析、研究成果の発表のために研究費を使用する。送付用と返信用の封筒、トナーカートリッジやA4用紙など調査票や封筒作成のために必要な物品を購入する。膨大な数量の封筒と調査票を作成する必要があり、また収集したデータの入力作業のために学生アルバイトを活用する計画であり、そのための費用が必要となる。調査票の送付・受け取りのための郵送費用が必要となる。収集したデータの解析を効率的に実施するための統計解析ソフトウェアの購入を計画している。インタビュー調査も実施する。東北地方の製造業や卸売・小売業の企業を対象としており、そのための交通費が必要となる。研究成果の発表に関連して、学会参加費用や旅費、論文別刷費用が必要となる。平成29年度は最終年度であり、全体の研究を報告書としてまとめる計画である。そのための製本費用が必要となる。
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