2017 Fiscal Year Research-status Report
中小企業の情報通信技術利活用の水準向上を支援する評価システムについての実証研究
Project/Area Number |
15K17115
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Research Institution | Ishinomaki Senshu University |
Principal Investigator |
工藤 周平 石巻専修大学, 経営学部, 准教授 (60549153)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中小企業 / 情報通信技術 / 利活用 / 評価システム / 東北地方 / アンケート調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
中小企業における情報通信技術(ICT: Information and Communication Technology)利活用の評価システムを開発することを目的に、平成28年度に構築した評価システムに基づいて企業のICT利活用の現状に関するデータを収集し、ICT利活用の予備的な評価を実施した。2017年の6月下旬から7月下旬の期間で、東北地方6県(青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島)に本社をおく売上高が各県上位200社という条件で、製造業と卸売・小売業からそれぞれ1200社、合計2400社を抽出し、郵送によるアンケート調査を実施した。製造業からは283社、卸売・小売業からは296社の返信があった。平成29年度は、主に製造業の企業から得られたデータの解析を中心に研究を実施した。得られた有効回答を用いて分析を行った結果、顧客価値については、製品の信頼性を基礎に、製品の提供スピードや顧客対応のスピード向上、顧客の個別要求への対応を重視する一方、低価格化、革新的製品の提供、新機能の付加、製品の環境性向上への重視度は比較的低い傾向が示された。ICT適用範囲については、全般管理、製造、出荷物流の業務で、ICTを活用して複数部門間または企業全体でデータを共有管理する企業の割合が比較的高い一方、ICTを活用して複数企業間でデータを共有管理することはほとんど行われていないことが示された。ICT活用効果では、技術開発、マーケティング・販売、サービスといった業務と比較して、全般管理、人事・労務管理、製造、出荷の業務でICT活用効果が高い傾向が示された。5つの要因を用いてICT利活用の組織的活動の評価を行った結果、経営のリーダーシップやコミュニケーションの能力と比較して外部委託の能力が低い傾向が示された。東北地方の中小規模の製造業における経営戦略やICT利活用の現状と課題を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成29年度は中小企業の情報通信技術利活用に関する枠組みを構築し、東北地域の中小企業を対象にアンケート調査を実施しデータを収集したが、そのデータの集計と情報通信技術利活用の評価システム構築に向けた分析に予想以上の時間を要したため、科研費事業の補助事業期間を1年延長することとなった。最終的な目標は、中小企業のICT利活用の水準向上を促進するための評価システムを開発し、それを用いて中小企業のICT活用の重要課題の特定や有効なICT活用方法を提案することである。すでにそのために必要なデータを東北地方の製造業と卸売・小売業の中小規模の企業合計で400社以上から収集し、経営戦略とICT利活用の関連性やICT利活用に関する要因間の関連性の分析、ICT利活用の現状に関する分析を行った。ICTの活用効果、適用範囲、利活用のための組織能力の視点から、収集したデータに基づいてICT利活用の予備的な評価を行っており、評価システムの妥当性を検証する作業を行っている。ICT利活用の水準を得点化して数値で表すための検討を行っており、因子分析や主成分分析をはじめとする統計的手法を用いて得点を算出する作業を行っている。本研究では経営戦略とICT利活用の水準の関係を分析する計画である。経営戦略を分析するための枠組みとして価値基準の枠組みを導入しているが、それに基づいて経営戦略を評価するための指標を導出した。研究成果の発信についても、すでにいくつかの国内および国際学会に発表の申込みを行っており発表の採択を受けている。当初の計画よりは遅れているものの、中小企業におけるICT利活用の評価システムを開発するために必要なデータの収集や分析は進んでおり、また研究成果の発信に向けた作業も行っており、平成30年度中の研究目的の達成に向けて問題はないと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、構築した評価システムの妥当性を検証し、企業における実際の活用に適したシステムとなるように改善を行う。評価システムを用いて東北地方の企業を対象としたアンケート調査を、規模の大きい企業や産業を特定せずに実施し、本事業で構築するICT利活用の評価システムの汎用性についても検証する。調査は、従業員数が30人未満の企業は有効回答率が低い傾向が示されたため、30人以上の企業1000社を対象とし、平成30年7月下旬までにデータを収集する。約200社の企業から回答を得ることを目標とする。新たなデータの収集と同時に、平成29年度に収集したデータの解析を進める。ICT活用の適用範囲、効果、組織的能力の特徴を明らかにし、現状と課題を抽出する。ICT利活用の評価システムを用いて企業のICT利活用の水準を評価し、活用が進んでいる企業やあまり進んでいない企業の特徴を分析する。経営戦略とICT利活用水準の関係性、企業規模によるICT利活用水準の違い、地域によるICT利活用の状況の違い、産業によるICT利活用の特徴の違いを分析し、ICT利活用に影響を及ぼす要因の特定を行う。また仕入先や取引先の企業との関係といった企業間関係の特徴にも焦点を当てて、特に仕入先や取引先企業との地理的な距離に注目しながらICT利活用の水準との関係性を分析する。これらの分析を通じて、ICT利活用を促進するための重要要因や阻害要因を特定し、中小企業のICT利活用促進のための方策を示す。アンケート調査による分析結果に基づいて、平成30年度の終わりにインタビュー調査を実施する。インタビュー調査では、中小企業のICT利活用に関する本研究の成果の妥当性を確認することを目的とする。これらの研究成果を、学会発表や論文投稿などを通じて国内外に積極的に発信する計画である。
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Causes of Carryover |
中小企業の情報通信技術利活用に関する枠組みを構築し、東北地域の中小企業を対象に第1回のアンケート調査を実施しデータを収集したが、そのデータの集計と情報通信技術利活用の評価システム構築に向けた分析に予想以上の時間を要し、科研費事業の補助事業期間を1年延長することとなった。平成30年度は、中小企業におけるICT利活用について妥当性の高い評価システムを開発するという最終目標を実現する必要がある。企業1000社を対象にアンケート調査を実施する計画であり、約200社の企業から回答を得ることを想定している。企業1社への郵送の費用に140円、返信の後納郵送費用に1社あたり155円が必要となる。学会発表や論文投稿などを通じて、研究成果を積極的に発信する計画であり、そのための旅費や参加費用が必要となる。
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