2015 Fiscal Year Research-status Report
企業の配当政策が利益調整行動に与える影響に関する実証研究
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15K17154
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
市原 啓善 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (60732443)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 財務会計 / 報告利益管理 / 利益平準化 / 配当政策 / 実証分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、配当と報告利益管理(earnings management)の関係を分析するものである。本研究では、減配回避・安定配当といった配当政策の達成が、経営者に対して利益調整インセンティブを与えているものと予測する。すなわち、前期の配当金を維持するために必要となる配当財源(分配可能額)を確保すべく、利益増加型の報告利益管理を行っているという仮説を設定している。本研究は、利益ベンチマーク研究に関する報告利益管理行動の研究において、報告利益管理の動機として考えられてきた、損失回避、減益回避、利益予想値の未達回避に加え、「減配回避」という4つ目の新しい動機の存在について解明するものとなる。 報告利益管理行動に関する研究は、過去数十年にわたって、報告利益管理の動機の解明を基軸として、その手法、測定方法、報告利益管理行動を促進あるいは抑制する決定要因、利害関係者への経済的帰結に関する解明が試みられ、目覚ましい発展を遂げてきた。動機の解明が基軸の研究領域とされてきた理由は、会計情報の持つ機能の理解を高めるために必要となる経験的証拠が期待されるためである。 これまでに、1. 減配回避を目的とした報告利益管理行動の存在 2. その手法(会計的裁量行動と実体的裁量行動) 3. 会社法配当規制の改正が、当該会計行動に及ぼした影響 について、わが国企業を対象とした実証分析を通して明らかにしてきた。本研究期間内に明らかにする主要な点は、4. 減配回避を目的とした報告利益管理行動の証券市場における評価となる。 本研究は、利益ベンチマーク研究における、減配回避という4つ目の動機の観点から実証分析を行い、会計情報の持つ機能の理解を高めるために必要となる経験的証拠の提示を目指すという意味で、最近の実証会計学研究の流れに沿った研究として位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
企業経営者が報告利益管理を行ってまで減配回避を志向する動機の一つには、株式市場からの評価、すなわち大幅な株価の下落を回避するためであると考えられている。本研究では、企業経営者による会計行動が、株式市場に及ぼした影響について検証を行い、報告利益管理行動の動機の解明、そして会計情報の持つ機能の理解を高めるために必要となる経験的証拠の提示を行っている。 初年度ではまず、先行研究のレビューと、研究目的・理論的枠組みを整理し、仮説命題の構築を行った。次に、わが国企業の大量の財務データ・株式データを用いた実証分析を行い検証結果の整理・解釈を行った。析出した実証分析結果を反映させて、学術論文を執筆し、査読付学術誌への投稿を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
会社法配当規制では、資本額に相当する財産を維持することを要求しており、その目的は、会社債権者の保護としている。また、これまでの研究からは、企業サイド、少なくとも配当財源が枯渇した企業では、剰余金の区分について、「払込資本と留保利益」というよりも、「配当不能財源と配当可能財源」という枠組みで捉えている可能性を推察することができる。そこで、会社法配当規制で規定する配当財源の恣意的な調整行動に対する、社債権者の投資行動に関する実証分析を通して、会社法配当規制情報の開示の在り方や有用性を高めるために必要となる経験的証拠の提示を目指す。 具体的には、先行研究のレビューと、研究目的・理論的枠組みを整理し、仮説命題の構築を行う。そしてわが国企業の財務データ・社債データを用いた実証分析を行い検証結果の整理・解釈を行う。析出した実証分析結果を反映させて、学術論文を執筆する計画である。
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