2015 Fiscal Year Research-status Report
外部監査とコーポレート・ガバナンスとの関係が利益調整に及ぼす影響に関する実証研究
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15K17160
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
笠井 直樹 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (80584143)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 財務諸表監査の品質 / コーポレート・ガバナンス / 監査報酬 / 継続監査年数 / 利益調整 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,外部監査人の独立性とコーポレート・ガバナンスとの関係が,経営者による利益調整行動にどのような影響を及ぼしているのかに関して実証分析を通じて明らかにすることである。本研究は,外部監査人,コーポレート・ガバナンス,経営者の特徴や行動を代理する複数の指標を用い,これら3者間の関連性を同時に検討している点に特徴がある。昨今,特にオリンパス事件や東芝の事件等により,国際的にもわが国における監査人の独立性およびコーポレート・ガバナンスの問題が再び注目を集めている。しかしながら,当該テーマに関する定量的な研究は,国際的にも十分に進展しているとはいえない,その意味で本研究は学術的にも社会的にも有用な研究である。 当初の研究計画に従い,本年度は主に関連する文献のレビューおよび実証分析に必要なデータ・ベースの構築・整備を中心に行った。まず,外部監査人関連の指標の計算に必要なデータ・ベースを更新し,これらの指標を新たに推計し直す作業を行った。このうち特に監査報酬に関するデータに関しては,近年導入された内部統制報告書に対する外部監査制度およびリーマン・ショック等の影響により,分析対象期間によってはその水準がかなり異なってしまうため,こうした制度・環境の変化による影響をコントロールすることの必要性を確認した。そして,こうした問題に対処するために,同様の問題を抱えた先行研究を比較・検討したうえで,分析対象期間の変更や新たにコントロール変数を設定する等の処理を行った。 これ以外にも,コーポレート・ガバナンス関連のデータ・ベースを新たに購入し,必要な指標の推計を行った。さらに,外部監査人とその他のコーポレート・ガバナンスの仕組みとの関連性について,具体的な仮説を設定するために関連する文献のレビューを行った。また,現時点で実行可能な分析を随時進めるとともに,関連する分析も同時に進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ,初年度の目標であるデータ・ベースの構築と関連する文献のレビューについては概ねその目的を達した。今後はこれらのデータ・ベースを利用し,推計した変数を統計分析にかけ,設定した仮説の検証を行う作業を随時進めていく。 また,本研究で用いる経営者による利益調整行動を測定する指標および外部監査人関連の指標,さらに,コーポレート・ガバナンス関連の指標についてもすでに推計を完了し,これらの指標を用いた分析を進めている。しかしながら,コーポレート・ガバナンス関連の指標については,近年の会社法の改正やコーポレートガバナンス・コードの影響も考慮する必要性があるので,分析対象期間およびコントロール変数その他の変数の追加設定等については慎重に検討を行っているところである。 また,経営者による複数の利益調整の手法を監査人およびその他の監査先企業に設定されている機関がどのように識別し,それを抑制するのか,あるいは抑制しない(識別できない)のかといったことを明らかにするには,これまでの先行研究で提示されてきたのとは異なるより複雑な洞察が必要であり,この点は今後より慎重に検討していかなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度において構築したデータ・ベースおよびすでに計算済みの指標を用いて分析を進めていくと同時に,研究会および学会等において研究成果の公表を行っていくことが次年度の主たる目標である。こうした目的を達成するためには,本研究で設定している外部監査人関連の指標および利益調整行動を代理する指標,そして,コーポレート・ガバナンス関連の指標に影響を及ぼすと想定される他の要因についても検討する必要がある。 本研究では,外部監査人の行動を代理する指標の1つとして監査報酬を設定しているが,そもそも公表データである監査報酬を用いて指標の推計を行う場合,その決定要因をどう設定するかについては先行研究においても明確な結論が得られているわけではない。そこで,こうした論点も踏まえ,分析モデルの精緻化を進める必要がある。 また,コーポレート・ガバナンス関連の指標に関しては,入手したデータ・ベースに収録されていない重要なデータについても個別に手作業で収集し,企業行動の実態を捉えるためのモデルの精度の向上を図る予定である。 以上のように当初の計画にはなかった新たな要因をコントロールすることで,分析を精緻化し,より説得力のある結果が提示できる可能性がある。
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Causes of Carryover |
研究計画当初予定していたほど旅費がかからなかった点,また購入したデータ・ベースの購入金額が予想を下回ったこと等が主な原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は今年度よりも研究成果の公表を行うことを重視しているため,学会報告に要する旅費および論文の英文校正費用等に充当する予定である。
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