2015 Fiscal Year Research-status Report
会計情報を活用した株主資本コストの推計:割引率の時間的変動を前提とした場合
Project/Area Number |
15K17163
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
小野 慎一郎 大分大学, 経済学部, 准教授 (20633762)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 資本コスト / 期待リターン / 割引率 / 現在価値 / クリーン・サープラス |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度にあたる平成27年度は,第1に,Lyle and Wang (2015, Journal of Financial Economics) のモデルを用いて,日本企業に対する投資者の期待リターン(企業側から見れば株主資本コスト)を推計した。Lyle and Wang (2015) は,(1)株主資本簿価/時価比率の対数,(2)株主資本利益率(ROE)の対数という2つの変数の線形関数として,翌期の株式リターンの対数が表現できることを示した。彼らのモデルに基づき,過去の株価データや会計データを用いて線形回帰を行うことで,毎期変動する期待リターンを容易に推計することができる。平成27年度は,当該手法で日本企業の期待リターンを推計し,その推計値と株式リターンの事後的な実現値との関連性を分析した。その結果,アメリカと比べて弱い証拠ではあるものの,日本においても当該手法の実証的妥当性を確認することができた。したがって,Lyle and Wang (2015) の推計手法は,今後の実務・研究において広く利用されることが期待される。 第2に,株主資本コストを評価・予測する際に有効な会計指標を,資本資産評価モデル(CAPM)の観点から考察した。CAPMの世界では,市場ベータ値で測られる不確実性リスクが資本コストを決める重要な要素となる。そして,市場ベータ値の決定要因となる会計指標として,(1)売上高の変動性,(2)営業レバレッジ,(3)財務レバレッジ,(4)利益/株価比率の4つが考えられる。平成27年度は,四半期財務諸表を用いて4つの会計指標を計算し,市場ベータ値との関連性を実証的に分析した。その結果,各会計指標値が大きいほど市場ベータ値も大きいという関係が見られることがわかった。したがって,これらの会計指標は,株主資本コストの評価・予測や割引率の決定に際して有用性をもつと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,初年度に次の2点を行う予定であった。第1に,新しい株主資本コスト推計手法(Lyle and Wang, 2015)の実証的妥当性の調査である。第2に,株主資本コスト推計手法の違いが会計情報の有用性検証に与える影響の予備的検証である。前者については,分析結果をとりまとめ,日本経営財務研究学会第39回全国大会にて発表することができた。後者についても,有用性検証の候補となる4つの会計指標(売上高の変動性,営業レバレッジ,財務レバレッジ,利益/株価比率)を識別し,日本会計研究学会第74回全国大会で分析結果を発表することができた。したがって,研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,主に3つの方向性で研究を進める。第1に,Lyle and Wang (2015) モデルの改善点の検討である。資本コストの推計精度をさらに高めるため,回帰手法や用いる変数の再検討を行ったうえで,研究会や学会大会で報告を行い,論文のブラッシュアップを進める予定である。第2に,Lyle and Wang (2015) とそれ以外の株主資本コスト推計手法との比較である。シドニー大学の発行雑誌であるABACUSの2016年3月号には,資本コストに関するレビュー論文が複数掲載されている。そこでの議論を参照しながら,比較対象や評価基準の検討を進める。第3に,会計基準や会計情報の品質が資本コストに与える影響の考察である。Lyle and Wang (2015) の後継論文であるChattopadhyay, Lyle, and Wang (2016) において,関連する議論が行われているため,当該論文の議論を参考にしながら,実証分析の方向性を検討する。
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Causes of Carryover |
当初は平成27年度に開催予定であった研究会のうち,平成28年度へと延期になったものが生じた。また,平成28年5月には,当初の年次計画策定時には参加予定のなかった学会大会(日本ファイナンス学会第24回大会)に,資本コスト研究の討論者として参加することになった。したがって,平成28年度には当初計画を上回る旅費が予想される。これに備えて平成27年度の助成金は,当初の年次計画の遂行の妨げにならない範囲で,平成28年度以降へ繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度から繰り越した金額は,研究会と学会大会に参加するための旅費として使用する予定である。
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