2016 Fiscal Year Research-status Report
概念フレームワークにおける資本の概念形成をめぐる課題―企業会計制度設計の視点から
Project/Area Number |
15K17174
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Research Institution | Ryutsu Keizai University |
Principal Investigator |
池村 恵一 流通経済大学, 経済学部, 教授 (70409621)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 概念フレームワーク / 資本 / 利益 / 金融商品の貸方区分 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,企業会計の概念フレームワークにおいて,ある特定の範囲の資金提供者の持分(権益)にもとづいて,資本の概念を負債の概念に優先して独立に定めることの有益性を明らかにすることを目的としている。とくにIASBとFASBの概念フレームワークにおける資本の概念形成に伴う問題点を検討したうえで,資本を優先して独立に定めることの有益性を日本の企業会計制度設計の視点から明らかにする。 平成28年度研究については,当該年度の研究実施計画に照らして順調に進めることができた。IFRSと会社法会計との整合性に関する問題を検討した結果,IFRSにもとづいて作成された財務諸表においては,会社法会計の制度的な機能をふまえた資本に関する用語が用いられることで,既存の日本基準のもとでの財務諸表表示と類似した表示がなされることになり,このような措置が,利用者のコストを軽減させる可能性があることが考えられた。実際,IFRSにもとづく上場企業の財務諸表をいくつか調査した結果,会社法会計との整合性が図られていることを確認した。しかしこのときの問題としては,純資産科目のうち,株主資本以外の科目(たとえば新株予約権)については,会社法会計から逸脱した表示がなされており,その科目自体があいまいに示されることになってしまう,ということがあげられた。また,表示上の問題とは別に,会社法会計の主な目的である分配可能額の算定については,これまでの日本基準と同様に,IFRS適用のもとでもその実行可能性を保持できるのではないか,ということが考えられた。分配可能額の算定においては,その会社法上の条文にしたがって計算手続きを行えばよいので,どのような表示であれ,計算手続きの内容が明示されている限り大きな問題は生じないということが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画にもとづいて,おおむね順調に進展していると考える。その理由として,IFRSの任意適用企業数が増加の傾向にあり,研究を進めるための資料が確保できる環境が整いつつあることがあげられる。IFRSの任意適用企業数の増加は,IFRSと日本基準,さらにはIFRSと会社法会計の調整について,実務的なレベルで広く周知されてきた結果だと思われる。本研究にとっては,研究の対象であり,また検討結果を突き合わせる資料の確保につながる事象である。ただ,このことが,IFRSと会社法会計との親和性を直接的に示す事象ではないことに留意する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については,おおむね当初の研究実施計画にもとづき,適宜必要となる検討事項に注意を払いながら推進させる予定である。平成29年度研究計画においては,会計基準と法令にもとづく会計規定などが有機的に結びついて成立している日本の企業会計制度の設計上,IASBおよびFASBにおける差額概念としての資本「equity」が馴染まない考え方であること,また,資本の概念をある特定の範囲の資金提供者の持分にもとづいて直接的に定めることが日本の企業会計制度の設計において有益であり,このことが会社法会計との制度的な共生に資することを明らかにする。
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