2016 Fiscal Year Research-status Report
震災復興における地域コミュニティの回復力形成に関する社会学的研究
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15K17184
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
黒田 暁 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (60570372)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 社会学 / 集団高台移転 / 住まいの再生 / 暮らしの再生 / 地域社会の再編 / 回復力(Resillience) / 移転前・移転中・移転後のプロセス / 地域再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
東日本大震災から5年以上が経過し、調査対象地では集団高台移転事業が進行して、多くの集落では地域住民の新たな移転地での生活が始まった。しかしその一方で、規模が大きい新しい移転地ほど、工事の進捗ならびに移転状況が芳しくなく、いまだに仮設住宅で暮らす人々も少なくない。そこで平成28年度の本研究はとくに集団高台移転事業の移転前・移転中・移転後のそれぞれのプロセスについて、ヒアリングおよび参与観察調査を実施した。経過と進展状況を見極めながらヒアリング調査を重ねることで、これまで日本で実施されてきた集団移転事業(長崎県島原および新潟県中越)の事例から合意形成のノウハウ、移転後の地域社会の再編のあり方について参考にするとともに議論を深化させた。さらに地域社会の再編に向けては、これまでの申請者の地域調査の経験とデータを活かすかたちで地域とその生業(とくに漁業)に関する聞き書き集ならびに地域資源のブックレットの作成を進め、現在印刷発行中の状態にある。こういった取り組みと並行して共同研究者や地元役場、現地の復興応援隊と相談連携の上、ヒアリング調査を踏まえた集団移転事業と震災復興の進捗状況に関する社会ならびに生活意識調査についても共同研究者を中心にサーベイ調査を行った。また、平成27年度(2016年2月)に刊行した共編著書籍『震災と地域再生――石巻市北上町に生きる人びと』に反響が大きく、2016年12月には環境社会学会例会にて同書が取り上げられ、「環境社会学は震災後の社会をいかに語りうるか」というテーマで書評セッションが関西学院大学大阪梅田キャンパスにて開催され、登壇者として同書の解題を行い、そのあとコメンテーター・フロアーとの議論を行った。このような社会(地元)還元につとめながら、平成29年度も引き続き調査研究の進展に努めたいと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
とくに集団高台移転事業の移転前・移転中・移転後のそれぞれのプロセスについて詳細にするべく集中ヒアリング調査を数回行うとともに、そうしたローカルな事象が「震災後の社会」論とどのようなリンクにあるのか、予定通りの調査と考察を行うことができている。また地元の当事者との協力・協働の上で生活意識調査や聞き書き集の作成についてもおおむね予定通りに進めることができていることから、上記の進捗状況の評価としている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は調査研究について総合的なとりまとめに入り、震災復興の中長期的な展望と政策提言を行うための最終準備に取り掛かる。調査研究から得られた知見や実践活動の経験を取りまとめ、関連学会で報告し、その成果を投稿論文として発表する。震災復興活動自体は5 年、10 年と続いていくことが見込まれるが、本研究はそのプロセス研究をより長期的な視野で行うべく、地元役場(北上総合支所)や復興活動にかかわるボランティアとの協働で「復興史」を作成していくことを計画している。本研究計画は北上町の二地区の被災経験を基にした復興モデルの構築に向けて、集団高台移転事業と生業復興を軸として、その中核部分を形成するものと位置づけられる。また、調査研究の最終報告、取りまとめを兼ねたシンポジウム(ワークショップ)の開催を計画する。北上町で行う地元向けのものに加え、東京でも行うことで政策提言の公表と、研究成果物の出版を目指す。 集団高台移転事業がほぼ完了した後にも復興支援活動に引き続きかかわるつもりである。
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Causes of Carryover |
生活意識調査を実行する際の調査費負担について、調査を主導した共同研究者が一括して負担した。それによって次年度使用予定額が増えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
聞き書き集の刊行予定部数を増やし、前年度残額分をそこに充てる予定である。
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