2016 Fiscal Year Research-status Report
性暴力事件の裁判に裁判員制度がもたらす影響に関する実証的研究
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15K17191
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
小宮 友根 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (40714001)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 裁判員評議 / 会話分析 / エスノメソドロジー / 刑事司法におけるジェンダーバイアス / 性暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度の主な研究実績としては、模擬評議の録画データの会話分析について研究論文を1本、性暴力裁判の判決文の分析について研究論文を1本、それぞれ公刊することができた。 模擬評議の録画データの分析では、評議において裁判員が推論に用いる日常的知識を三つのタイプに区分し、それぞれのタイプの知識が用いられる場所が評議コミュニケーションにおける行為連鎖上の環境と密接にかかわっていることを明らかにした。裁判員は、「一般的知識」「経験にもとづく知識」「カテゴリーと結びついた経験にもとづく知識」といった知識のタイプの違いを敏感に考慮に入れており、「裁判官からの質問に答えるとき」「他の裁判員の意見に反論するとき」といったその都度の環境に応じて、そのつど資源となる知識を用いて意見表明をおこなう。こうした分析結果から、「国民の健全な常識」を刑事司法に反映させるのが裁判員制度の目的であるならば、その「常識」の中身と、それが評議の議論にもたらされる仕方についての経験的検討は制度の評価にとって重要であることを論じた。 性暴力裁判の判決文の分析では、性暴力被害の事実認定に際して、被害者に対して一貫した非自発性を要求するような日常的知識が「当座のアプリオリ」と呼ぶべき身分の知識として推論を方向付けていることを論じることで、性暴力裁判において「被害者資格」問題と呼ばれている問題の再検討をおこなった。「当座のアプリオリ」のような身分を持つ知識は、狭い意味での論理則ではなく、また経験則でもないため、非論理性や経験的証拠の不在を主張するだけではそうした知識の使用を十分に批判することはできない。また、そうした知識は裁判官や弁護人のみならず検察側の立証においても使用されるものであるため、裁判官のジェンダーバイアスを指摘するだけで被害者資格問題の解決には繋がらない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度の進捗として、上記のとおり研究論文を2本公刊できたほか、新たに模擬評議の録画データを3件収集することができた。そのうち1本は、元職・現職の裁判官に裁判官役を務めていただくことができた本格的なものである。2017年度はそれらのデータにもとづいた分析を進めることができ、研究は順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は昨年度収集したデータの分析にもとづいた学会報告をおこない、可能であれば論文としてまとめ投稿予定である。学会報告は、国際語用論学会での報告がすでに決定しているほか、国内ではジェンダー法学会大会と日本社会学会大会での報告を検討中である。 また、新たに1~2件の模擬評議の収録を予定している。
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Causes of Carryover |
研究報告を行うための研究会が当初の予定より多く入ったため、研究費の多くを旅費に使用することになり、物品の購入にあてる予定だった分が予定どおりに消化できずわずかに残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述のとおり、研究遂行上の問題によって生じたわけではないので、当初の予定どおり2017年度の物品費にあてる予定である。
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Research Products
(4 results)