2018 Fiscal Year Annual Research Report
An empirical research on the effects of Saiban-in system on the cases of sexual violence.
Project/Area Number |
15K17191
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
小宮 友根 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (40714001)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エスノメソドロジー / 会話分析 / 裁判員制度 / ジェンダー / 性暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、当初の研究目的であった性暴力事案の模擬評議における行為連鎖構造の分析から論文の執筆を試みていたが、十分な成果を上げることができなかった。その原因は主として評議の分析に必要な基礎的会話分析研究が不足していることがあきらかになったことである。 そのため2018年度は、評議の基礎的な会話構造の分析にあらためて取り組み直すよう研究の軌道修正をおこなった。その成果は主に以下の二点である。 ひとつは裁判員が意見を述べる際に頻繁におこなう「当事者の身になって考える」ことが、どのようにおこなわれているかの分析である。裁判員は、一人称表現などの言語的資源によって「当事者として発言する」ことをし、自らの身体を当事者の身体に見立てて動作の自然さや不自然さを判断し、またそれらの組み合わせによって自らの周りの空間を「事件現場」へと作り上げる。そしてそうした実践は、証拠の「客観的な」特徴だけからわからない、まさに事件当時の当事者たちにおける事物の理解を評議の場に再現前させるためにおこなわれていた。 もうひとつは量刑評議における裁判官のインストラクションとそれに対する裁判員の反応の分析である。裁判官は事案を個別的要素に分解し、特定の要素を過去の事案と比較し、その比較において現在の事案の要素に重み付けをおこない、それを総合する形で結論に到達するよう裁判員にインストラクションをおこなう。裁判員がそのインストラクションに従い損ねるのは、この全体構造が会話の中で不透明になっているときであった。 研究期間全体を通しては、判決文の分析からは性暴力裁判において常識的知識が「当座のアプリオリ」として用いられていることの問題点を指摘することができたものの、プロジェクトの中心である模擬評議の分析からは性暴力事案の特徴をまとめることができなかった。理由は上記のとおりであり、その克服が今後の課題である。
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Research Products
(3 results)