2018 Fiscal Year Research-status Report
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15K17194
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
武藤 正義 芝浦工業大学, システム理工学部, 准教授 (00553231)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 囚人のジレンマ / チキンゲーム / 相互監視 / 集団間競争 / 様子見 / 排除 |
Outline of Annual Research Achievements |
具体的な権力メカニズムには制裁権力や規律権力などがあるが、初年度では、競争権力メカニズムを組織におけるゲームとしてモデル化した。次年度では、ウェーバーの権力概念を手掛かりに、逆に、抽象的な非対称性から出発し、(対称ゲームにおける)格差のある非対角均衡として権力現象を位置づけた。昨年度では、この格差のある実効的な非対角均衡のみを均衡としてもつ狭義権力生成状況や非対角均衡を単に均衡に含む広義権力生成状況が存在する確率をシミュレーションによって明らかにした。また、以上の研究を発展させ、二集団間の競争状況下において、集団に所属する人びとが、集団間競争により協力させられ権力が生成・強化されていくメカニズムをモデル化し、それが実現する条件を明らかにした。今年度はこの二集団間モデルをさらに発展させ、トロントにおける世界社会学会議(ISA)で口頭発表した(Muto 2018)。その一方、相互監視型の水平的な権力メカニズム分析として位置づけられうる繰返し囚人のジレンマ・モデルを分析した(武藤ほか2018)。このモデルでは従来の「協力」「非協力」に加えてややマイルドな「様子見」を行為者が選択できるため、関係を断ち切るソフトな排除型権力が扱える。
文献: ・Masayoshi Muto, 2018,"A Game Theoretical Analysis on Linkage between Groups Relation and Individuals Relation ",XIX ISA World Congress of Sociology , Toronto, Canada, July15-21. ・武藤正義,田口拓哉,坂本雄飛,2018,「様子見は付き合いに何をもたらすか:行動エラー下での離脱・復帰可能な繰り返し囚人のジレンマ」『理論と方法』33(2): 331-348,9月30日.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文1本と国際学会発表および、上述以外の下記の学会発表を行うことができたため、おおむね順調に進展してはいる。
・田口拓哉,武藤正義,2018,「様子見可能な繰り返し囚人のジレンマの状態ネットワーク分析」第15回ネットワーク生態学シンポジウム(大濱信泉記念館),11月17日-18日. ・山本仁志,岡田勇,田口拓哉,武藤正義,2018, 「エコシステムアプローチによる自発的参加あり繰返し囚人のジレンマの研究」第15回ネットワーク生態学シンポジウム(大濱信泉記念館),11月17日-18日.
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Strategy for Future Research Activity |
N人チキンゲームに準拠した二集団間モデルおよび様子見可能な繰り返し囚人のジレンマという2つの社会的数理モデルのそれぞれを権力論の文脈から再解釈し、両者を比較しながら、本研究の意義をまとめていく。また本研究はこれまで権力メカニズムの分析にあてられていたが、最終年度に至り、どんな社会秩序も不可避的に伴うことになる権力がどのような姿であるべきかを顧慮しつつ、権力への抵抗という論点を彫琢する。
本研究の1つのモチーフは、行為者を取り巻く場や利得構造が競争的・相互監視的な権力により、権力者が明確な輪郭をもたない点にある。つまり、いわば誰もが部分的な権力者であり、部分的な被権力者である。この状況は(暗黙の)ルール・慣習・イベント等の制度も構成要素となっており、全体として《空気》のようなシステム(仕組み)をなすが、このシステムの一側面として権力はある。
権力者が明確な輪郭をもたないシステム的権力への抵抗は、その作動メカニズムの意識化だけでなく、その在り方や、新たな社会的ムーブメントとも関係する。たとえば、閉塞感や息苦しさは移行コストの高さや既得権益にしがみつく人びとの保守性といったものの総体がなす一種の権力作動ともいえるが、これを打ち破るような(しばしばITCなど新技術をも伴う)新しいムーブメントは、それじたいが保守的な人びとの抵抗を排してでも動かそうとする権力的側面をもつからこそ、既存の権力への抵抗なのである。つまり、新たな仕組みづくりやそこに集う人びとからなるニュー・コミュニティといった新しい社会の動き――ソーシャル・イノベーションやソーシャル・デザインは、新たな社会秩序を構想しつつ実践する「よりましな」権力だからこそ、既存の権力への抵抗という側面をもつ。人を動かす新しい仕組みに権力論的な批判的検討を加えつつも、「よりましな」社会をつくっていくことに資する知見の提供へ繋げていきたい。
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Causes of Carryover |
本務校および諸般の事情により、当初予定していた国外出張がなくなったため、次年度使用額が生じた。当該助成金は、国内外旅費、研究に伴う事務全般に係る人件費、書籍、消耗品、物品等に使用される予定である。
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