2015 Fiscal Year Research-status Report
グローバルな相互理解の場としての国際政治活動プロセスに関する実証研究
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15K17195
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
富永 京子 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (70750008)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会学 / 観光学 / 社会運動論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、分担執筆書籍2冊、Proceedings論文2本の刊行、学会報告4回(国際学会3回、国内学会1回)での報告を行った。また国際誌査読論文1本の投稿、単著書籍2報の執筆(うち1報は博士学位申請論文の書籍化)にとどまるなど、学振特別研究員(PD)であった昨年度に比べかなり生産量としては落ちているが、その分、国内外での取材や調査を行うことができ、来年・再来年の成果へと繋げることが可能になった。とりわけ、若者論・社会情報学の研究を数多く取り入れられる機会が出来たように思う。 研究成果の概要であるが、第一に長く続けていたサミット・プロテストの参加者研究、第二に反レイシズム・カウンター運動の新しさに関する研究である。これら二つは全く別の研究チーム内でのプロジェクトとして行っていたが、この二つの研究から、グローバル化時代における個人化・流動化によって、異なるばらばらの担い手同士が繋がる運動のあり方としての「ロジスティクス」をより深く探求することができた。 社会運動を一種のツーリズムとするタイプの運動(国際会議への抗議行動やボランティア・ツアー、スタディ・ツアー)は減少傾向にあるが、ポリティカル・ツーリズムをとりまくロジスティクスはやはり上述したような運動、さらに2014年から2015年にかけて現れた若者中心の特定秘密保護法や安保法案に対する反対運動にもある程度適用できるものと言える。まだラフスケッチ段階ではあるが、ポリティカル・ツーリズム概念によって近年の運動を検討する方途を、国際学会での報告やProceedings論文で示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究は当初の計画以上に進展している。その要因として、やはり「若者運動」という新たなフィールドと、執筆の機会を得たことが大きい。一見「グローバルな相互理解の場としての国際政治活動プロセス」を検討する本研究課題と無関係なようにも見えるが、台湾での調査研究(この調査研究自体は科研費による実施ではないが)を経て、近年の若者運動の東アジアにおける連携もまた、報告者が長く検討してきたサミット抗議行動とは異なる形で「グローバルな相互理解」に寄与していることが分かったためだ。こうした発見は、主に運動従事者によるドキュメントや聞き取りによって観察可能なところとなった。 サミットへの抗議行動を通じて見られる相互理解は、ある場所と時間、また生活のための諸行為を通じて行われる非言語的・言語的なコミュニケーションによる相互理解のプロセスであった。しかしこれは、ある程度の社会運動経験や政治的知識といった「文法」を前提とした相互理解であり、いずれかといえば年長の人々や社会運動経験の長い人々に見られるものであった。これに対し、若者運動を通じて観察される政治的相互理解は、必ずしもそうとはいえない。若者たちは、たとえ彼らの運動の目的が相反するものであっても、学生である・若者であるということ、またそれに基づく貧困や社会に対する不安により、国境を超えて結びつくことができるように見える。また、「若者」たちのシェアハウスやオルタナティブなライフスタイル志向も、こうした相互理解をすすめているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策であるが、第一に、現在執筆中の若者運動に関する単著を仕上げる。特に国内の若者運動を検討したものではあるが、一部、目的が大きく異なる台湾の学生たちによる運動との比較を踏まえた連携研究を行う。元来、非常にナショナルな目的を持ち、他国との連携を強調しない運動同士において、若者たちのグローバルな相互理解がいかにして可能になったのかを検討することは、学術的にも社会的にも非常に重要となるだろう。こうした事例に注目することで、本研究課題はさらに理論的な深みを増すものと考えられるだろう。 第二に、2016年5月に行われる伊勢志摩サミットへの抗議行動や対抗議論を検討する。あまり大きな規模の活動とはいえないが、フェミニズムやエネルギー政策の視点からさまざまな意見が提示されており、欧州の活動参加者たちも関心を寄せている。申請者自身も、公の場でサミット・プロテスト研究の担い手としてこれまでの研究や欧米での研究潮流を語り、議論することが求められる機会も多いため、積極的な議論と発表、活動従事者とのコミュニケーションをさらなる研究へと活かしていきたい。 第三に、これまで取り組んできたサミット抗議行動の研究と若者運動研究を縫合させ、観光学的な分析視角から研究をすすめることにより、これまで国内で主流であった「経営学」「人類学」的観光論とは異なる研究を提示したい。このために、海外でのボランティア・ツーリズムやスラム・ツーリズムといった研究を渉猟する必要があるだろう。
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Causes of Carryover |
2015年8月に生じた大規模な若者運動の発生から、市民社会をめぐる実態自体が大きく変化し、若者運動研究のために出張を行う必要があると考え、前倒し申請を行った。しかし、若者運動参加者自身が申請者の任地に来訪することも多く、また申請者自身も活動に参加することが多くなった、あるいは申請者自身が交通費を受け取って活動の場で発言し、そこでコミュニケーションを取ることもあったために、予想に反して出張費を使う必要がなくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き国内での調査を続ける。また、本年の活動を通して、海外でも研究業績について知ってもらえることや、発言を求められる機会が多くなった。そのため、交通費が支出されない海外での研究会・学会に参加するための宿泊費や、論文・査読コメントの英文校正費に研究費を充当することが多くなると考えられる。
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Research Products
(10 results)