2015 Fiscal Year Research-status Report
流域圏を単位とした文化の継承と生存基盤をめぐる研究‐宮城県南三陸町を事例として‐
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15K17196
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
山内 明美 大正大学, 人間学部, 准教授 (80710483)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 流域圏 / 生存基盤 / 風土 / 民間信仰 / 東日本大震災 / 持続可能 / 文化継承 / 伝統芸能 |
Outline of Annual Research Achievements |
東日本大震災から5年目が経過する南三陸町をフィールドにしているが、人口減少も相まって縮小/減退化する日本社会の状況の中で、「開発」優先の復興・復旧事業の見通しは厳しいと言わざるをえない。莫大な国費が投入されているのだが、設計されている地域の大きさが、将来的に市町村が維持可能な「身の丈」よりもかなり大きな器になっていることを指摘したい。こうした地域の経済事情については把握の必要があり、平成26年度より行っている南三陸町役場での財政調査を27年度も引き続き行った。港湾工事にはかなりの遅れが見られ、沿岸部整備の9割の予算は執行されず、工事の遅れとともに見送りになっている。主には沿岸部の天候(とりわけ台風)や地権者との折衝が進まないなど理由はあるが、予算計上の規模も、被災地域のキャパシティを大きく超えていることが分かった。 文化継承の側面では、平成27年度は、南三陸町戸倉地区水戸辺川流域圏を拠点として、上流の在郷集落から水戸辺集落での過去の津波の聞き書き調査と、集落で継承されている鹿躍りのはじまりにまつわる調査を行った。鹿躍りは、村の人々の犠牲を弔う躍りとして継承されてきたが、歴史的な調査を重ねていく上で、鹿躍りが、水戸辺川上流の在郷集落まで上がった慶長津波以後の「新田開発」に端を発しているのではないか、という仮説が浮かび上がってきた。文献調査も合わせ、引き続き継続中である。 また、国内では宮城県と岩手県南に集中的に分布している固有の伝承切り紙の文化があり、第1回の町民研究会として、南三陸研究会を立ち上げることができた。三陸で暮らす人びとの信仰は地震、津波、冷害、海難事故との向き合い方を探る手立てであり、とりわけ三陸沿岸部に集中的に残存している複雑な御幣の文化は、《三陸世界》とも呼べる壮大なコスモロジーを表象していることも、朧げながら分かってきたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果を発表する機会にも多く恵まれ、当初の計画であった目的は概ね達成できたと考える。平成27年度の投稿論文は2本、内1本は共著論集として刊行することができた。 また、南三陸町での町民研究員要請の一環として、研究会を発足することができた。第1回の研究会には地域の方など50名ほどの参加者があり、盛況であった。さらに、南三陸町の中学生への総合学習授業でも、本研究成果を共有している。平成28年度も引き続き、南三陸での町民当事者、中高生への研究成果の共有についても取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、新たに伊里前川流域圏の調査に取り組んでいる。新年度はすでに第2回目の町民研究会も開催し、専門家の協力も得ながら風土形成、生態調査をすすめている。これら調査段階の過程から、地域の方々にもご参加いただき、研究経過、調査方法も含め、被災地域の方々と共有する方法をとっている。このことは、復旧事業で風景が大きく変貌し、高台移転に伴うコミュニティ消滅といった地域変貌する過渡期において、とりわけ必要な作業であると思われる。27年度同様、継続する。 流域とは、水の集まる集水域のことであり、三陸沿岸部の暮らしの生存基盤そのものであったことを、改めて認識している。「山を治めて水を利する」「山が荒れれば、海が荒れる」といった流域圏の暮らしの根底を再検討するとともに、地域に根ざした持続可能な暮らしの継承・記憶/記録を続ける。
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