2015 Fiscal Year Research-status Report
子どもを鍵とする社会像の問い直し:年少者像の再編期の歴史社会学と現代的変容の記述
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15K17197
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
元森 絵里子 明治学院大学, 社会学部, 准教授 (60549137)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 子ども社会学 / 歴史社会学 / 子ども史 / 構築主義 / チャリティ / 戦時動員 / 学童疎開 |
Outline of Annual Research Achievements |
1子どもの社会学の潮流の整理・検討:近代型の教育的(福祉国家的)子ども像を相対化する「新しい子ども社会学」の提唱から、さらにその反省へという英国・欧州の子ども社会学の展開を、主要論者の著作を読み整理した。1)ヨーロッパ近代の知としての子ども観(近代的主体の陰画)と、階層やエスニシティが交錯する現実の多様な子ども期への共感的まなざしの中で、子ども/大人関係を普遍的構造と見て子どもの視点を重視する構造主義的アプローチが広く受け入れられていること、2)そのさらなる捉え直しに直面した際に、子どもの身体発達をめぐる近代知の問い直しから、構築主義アプローチへと展開していったことなどが見えてきた。ヨーロッパ圏の社会学では共有されているこれらの潮流は、日本であまり紹介されていないため、さらに整理することで子ども研究に資すると考える。 2英国の年少者をめぐる制度史および最近の子どもの活動の参与観察:多様で階級分化した中での年少者の福祉・医療・教育等への包摂の経緯を法制史を中心に把握した。そのうえで、現代で子どもに関する新しい価値の創造を目指す活動の把握をと考え、ヤングケアラープロジェクト、冒険遊び場、道遊びの団体の見学を行い、その他の子ども関係活動の資料収集を広く浅く行った。当初の予想に反して、新たな価値の創造というよりは、近代的子ども観を前提にした中で、社会状況の変化に対応した活動が産まれていることが見えてきた。今後、日本との背景の違いを踏まえて、日本の事例研究を行う際の新たな視点を得ることができた。 3日本の総力戦期の子どもの動員・疎開の制度史の整理・資料の所在把握:二次文献により制度史の概要を把握した。また、英国の動員・疎開の過程と関連文献・詳細資料の所在を把握したので、次年度以降、比較も視野に入れた具体的な研究に着手できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究期間はすべて、本務校の在外研究制度による英国滞在期間と重なった。そのため、社会・制度背景への理解が深まった状態で、本研究課題に関する文献の読解、関連学会・研究会への参加や団体見学、関連研究者との面談などをインテンシブに進めることができた。希望どおりに面談・見学がかなわなかったケースもあったが、全体としては予定した程度の知見を集めることができた。 ただ、英国の活動見学をする中で、子どもをめぐる社会意識が予想と違った形で見えてきたため、当初の予定よりも英国の制度や活動の歴史・実態把握に力を入れることとなり、時間も多くとることとなった。その分、4年間通しての主課題であるべき日本の事例研究の進捗は、予定よりやや遅れ気味ではある。しかし、英国の事例を参照点することで、ヨーロッパ子ども社会学を深く理解できるようになったほか、事例研究の際の自らの従来の視点を問い直すきっかけを多く得たので、全体としては順調に進捗していると言える。今後、それを理論や方法論として洗練しながら日本の経験的研究を進めれば、研究期間全体では問題なく計画が遂行できると考えている。 以上より、初年度の進捗状況としては「おおむね順調」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画どおり、1)ヨーロッパ子ども社会学の状況のまとめ・紹介、2)日本の戦時期の子ども施策の分析、3)日本の新しい子どもの価値を創造しようとする活動の事例研究、4)方法論的視角構築に向けた理論の検討を行っていく予定である。その際、初年度の成果を踏まえて英国の事例との異同を考えることを経由し、分析に厚みを加えていきたい。 そのような作業の際、日本の研究ネットワークに向けてイギリスの成果を発表することと、英国で培った英語圏の日本研究者ネットワークやヨーロッパの子ども社会学のネットワークに英国・欧州の事例を経由した日本の分析を発表することの二方面から、ピアレビューの機会を確保したい。
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Research Products
(2 results)