2015 Fiscal Year Research-status Report
「国境の市民化」をめぐるローカルの重層的展開―日伊比較地域アプローチ
Project/Area Number |
15K17206
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
鈴木 鉄忠 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (20726046)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国境 / 帝国の未清算 / 八重山諸島 / 社会運動 / 過去の連累 / ネットワーク分析 / ローカル / 心身 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、21世紀の社会において、国境を軍事化・国有化・国民化する「砦としての国境」とそれを非軍事化・民主化する「扉としての国境」の重層的な総体を、日伊国境の比較という視点からローカルの実態に即して解明することである。本年度の研究実績は、研究計画で設定した3つの目的にあわせると、次のようになる。 1 「国境画定過程の日伊比較」では、既存の国境研究をサーベイした。先行研究のアプローチを「問題解決」と「問題解明」に大別し、国境問題と「歴史」との切り離し、「解決策」の存在の自明視、「歴史的真実」の存在の自明視という3つの問題点を指摘した。新たなアプローチとして、一つの国境問題の現在形がいかなる過去そして未来と直接・間接的に関連するのかを問う「問題連累アプローチ」を提起した。 2 「国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開」では、分析に必要なデータを収集した。とくに「尖閣諸島開拓の日」、尖閣諸島の国有化、南西諸島における自衛隊配備計画の3つのイシューに関する行為主体の実践と言説を現地新聞から収集した。2015年度の石垣市主催「尖閣諸島開拓の日」をフィールドワークした結果、市町村・県・国家行政の保守系政治家を中心とした〈政治化された尖閣ネットワーク〉と、憲法9条・反戦・反基地により連帯する全国各地の市民が相互乗り入れする〈トランスローカルな護憲ネットワーク〉が観察された。 3 「国境の市民化の可能性」に関して、沖縄八重山諸島では、前述の〈トランスローカルな護憲ネットワーク〉が「国境の市民化」の鍵を握ることがわかった。この〈護憲ネットワーク〉は、国家および市町村のレベルで保守系政治家が多数派を占めるため、政治決定に直接的な影響力を及ぼすことはできない。しかしながら、さまざまな規模の市民団体が相互乗り入れ的に集会を企画実現して世論を喚起し、抗議と抵抗を展開していることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 「国境画定過程の日伊比較」では、「問題連累アプローチ」という国境問題に対する新たな視点の大枠を提示することができた。それによって、国境が画定される前近代の社会文化的国境(くにざかい)を問題設定に含めることが可能になる。 2 「国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開の解明」では、「尖閣諸島開拓の日」制定と尖閣諸島国有化をめぐって、八重山諸島の動向を伝える基礎データを収集することができた。また新たな争点として浮上した「自衛隊配備計画」と関連させて検討する研究発展があった。さらに、「砦としての国境」と「扉としての国境」をめぐって、国家・地方自治体と市民社会の行為主体のネットワークを仮説的に提示することができた。 3 「国境の市民化の可能性」に関して、自衛隊配備計画反対を目標に活動する市民団体や個人と関係をつくることができた。信頼関係を構築することに努め、「扉としての国境」を実現するための諸条件を詳細に検討する可能性ができた。 4 国境の移動を検討する場合、国境地域の人々が心身レベルで被った影響を理解することが重要となる。その手がかりとして、トリエステで精神保健改革を進めたバザーリアの思想と実践を翻訳として日本に紹介する機会を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
1 「国境画定過程の日伊比較」では、戦後のイタリア・日本の国境画定過程の詳細な検討を課題とする。というのも、いかに両国の国境問題が、後発の近代国家建設とその「外部」へむけた帝国主義的な拡大、そして帝国の崩壊による領土処理と不可分に結びついているかが明らかになるからである。さらに、国境の非軍事化・民主化のためには、いかに前近代の社会文化的国境(くにざかい)の慎重な再評価が重要になるかが明らかになりうる。「帝国の未清算」という視点で日伊国境問題を捉える試みを推し進めていく。 2 「国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開の解明」では、「尖閣諸島開拓の日」制定・尖閣諸島の国有化・自衛隊配備計画の3つのイシューに関与する行為主体のデータベース化を課題とする。それらのデータをネットワーク分析し、〈政治化された尖閣ネットワーク〉と〈トランスローカルな護憲ネットワーク〉という仮説を再検討する。それによって、どのような諸条件がネットワークの拡大・縮小・拡散・分散に影響するのかを分析する。 3 「国境の市民化の可能性」に関して、地域住民の内面の動きにまで迫るための認識論/調査方法/理論的枠組みの集中的な検討が急務である。国境の移動を地域住民がどのように受容していくのかという「強制と合意のメカニズム」、そして国境の移動にたいして人々がどのように問い返していくかという「草の根の抵抗と抗議」あるいは「未発の社会運動」(新原道信)という視点の彫琢が不可欠になる。 4 本年度はイタリアの国境問題の動向を十分にフォローできなかった。移民・難民問題が「移動の自由」というEUの理念を根幹から揺るがし、「国境管理の復活」が行われている。しかしイストリア半島では、人権保護と難民の苦難の記憶から、自治体と市民団体レベルで国境復活に抵抗と抗議が行われた。こうした動きと連動させた検討が不可欠である。
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