2016 Fiscal Year Research-status Report
「国境の市民化」をめぐるローカルの重層的展開―日伊比較地域アプローチ
Project/Area Number |
15K17206
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
鈴木 鉄忠 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (20726046)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国境 / 帝国の解体 / ナショナリズム / 社会運動 / 地域社会 / 紛争解決論 / トリエステ / 沖縄八重山 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、21世紀の社会において、国境を軍事化・国有化・国民化する「砦としての国境」とそれを非軍事化・民主化する「扉としての国境」の重層的な総体を、日伊国境の比較という視点からローカルの実態に即して解明することである。本年度の研究実績は、研究計画で設定した3つの目的にあわせると、次のようになる。 1 「国境画定過程の日伊比較」では、戦争末期の占領時期から講和条約締結を経て国境画定問題が展開していく過程を、紛争解決論の観点から沖縄とトリエステに焦点をあてて検討した。分析の結果、①連合国の占領のあり方、②講和条約締結と冷戦到来の時期、③冷戦の地理的位置の違いにより、現在における日本の国境画定問題の未解決、イタリアの国境画定問題の解決の分岐となったことを明らかにした。 2 「国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開」について、R.ブルーベイカーの「三者関係モデル」を援用しながら、19世紀後半から20世紀半ばにおけるイタリア東部国境地域の民族問題を分析した。分析の結果、①ハプスブルク帝国の「民族の混合」(1880-1915年)における多民族間の分極化、②ハプスブルク帝国解体後の「民族のミスマッチング」(1915-1920年)における国家の「暴力の独占」の失敗と国家傍流の好戦集団の「暴力の応酬」の蔓延、③民族化国家による「民族性の消去」(1920-1941年)における民族的マイノリティに対する強制的同化政策とそれへの非合法的暴力の抵抗を明らかにした。 3 「国境の市民化の可能性」に関して、日本の南西諸島における自衛隊基地配備計画をめぐる地域の反応に関するデータを現地紙から収集した。ヨーロッパの難民危機と国家による国境閉鎖、それに対する地域社会の連帯した抗議に関するデータを現地紙から収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 「国境画定過程の日伊比較」では、これまで検討がなされていなかった日本とイタリアの国境画定問題に対して、紛争解決論を用いた比較分析の枠組みを提示することができた。それによって現在の両国の国境問題の起源を歴史的および地政学的に位置付けることができた。 2 「国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開の解明」では、国境地域におけるナショナリズムに対して、国家間関係と民族マイノリティの3者関係からなる分析枠組みを設定することができた。それによって、イタリア東部国境地域のナショナリズムの独自性と普遍性について、他の国々や地域の問題と比較しながら考察する見通しをえることができた。 3 「国境の市民化の可能性」に関して、国境地域で現実になっている「軍事化」(石垣島を含めた南西諸島における陸上自衛隊の基地配備計画)や「国境閉鎖」(ヨーロッパ難民危機に対する国家の国境閉鎖政策)に対して、トリエステと沖縄八重山の現地では、「砦としての国境」ではなく「扉としての国境」にむけた連帯が形成されていることがわかった。
4 国境線の移動と心身レベルの変調について、トリエステで精神保健改革を進めたバザーリアの思想と実践を翻訳として日本に紹介できた。
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Strategy for Future Research Activity |
1 「国境画定過程の日伊比較」では、今年度は「帝国の解体」という観点から第2次世界大戦後から現在の比較を行った。それと対比させながら、今後「国家の形成と帝国の膨張」という観点から、近代初期以降における日本とイタリアの国境画定過程を分析していく。 2 「国境の歴史問題をめぐるローカルの重層的展開の解明」では、第1に、今年度に学会や研究会で発表した19世紀後半から20世紀半ばにおけるイタリア東部国境地域の民族問題を論文で発表する。それによって同時期における日本が進めた同化政策との比較を行う。第2に、地域社会を総体的かつ実証的に捉えるための方法論的枠組みを検討する。それによって、観察可能なローカルの出来事/事件から出発し、変動局面で形成される領域性との関連、そして長期持続の土地や環境との関連、さらに個々人の心身との関連までを含めた重層的な社会過程を分析の視野に収めることが可能になる。 3 「国境の市民化の可能性」に関して、日本の南西諸島における基地配備に対して反対する地域住民と市民の連帯がなぜ形成され、どのように継続させようとしているかについて、現地での聞き取りおよび参与観察調査を行う。トリエステでは、欧州難民危機に端を発した国境閉鎖に対して抗議する地域住民と市民の連帯がなぜ形成され、どのように継続しているかを現地調査する。
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Causes of Carryover |
本年度は、研究成果の中間総括にあたる発表を学会や研究会を通じて集中的に行った。そのために出張による調査研究の日程と機会が取れなかった。よって本年度に予定していた旅費が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由により、前年度に予定していた調査研究を今年度に実施することとする。前年度繰り越しした予算を本年度の旅費に充てる。
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Research Products
(11 results)